《びゃくえ》の異相を眼にしたときには、傲岸奸略《ごうがんかんりゃく》、人を人とも思わない丹波も、ア、ア、アと言ったきり、咽喉がひきつりました。
 大髻《おおたぶさ》の乱れ髪が、蒼白い額部《ひたい》に深い影を作り、ゲッソリ痩せた頬。オオ! その右の頬に、眉のなかばから口尻へかけて、毛虫のはっているような一線の疵《きず》跡……しかもその右の眼は、まるで牡蠣《かき》の剥身《むきみ》のように白くつぶれているではないか!――ひさしぶりに丹下左膳。
 道場いっぱいに、騒然とどよめきわたったのは、ほんの一、二秒。さながら何か大きな手で制したように、シンとしずまりかえったなかで、左膳、からっぽの右の袖をダラリと振った。枯れ木に白い着物をかぶせたようなからだが、ゆらゆらとゆらいだ。笑ったのだ、声なき笑いを。
「出口入口の締りをしろ! 今夜てエ今夜こそは、一人残らず、不知火燃ゆる西の海へ……イヤ、十万億土へ送りこんでくれるからナ」
 ケタケタと響くような、一種異様な笑い声をたてた左膳は、細いすねに女物の長襦袢をからませて、鎧櫃をまたいで出た。
「サ、サ、したくをしねえか、したくをヨ! こ、この濡れ燕はナ、
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