鼓の与の公。
おっかなビックリで訪ねて行った尺取り横町のお藤姐御の家には貸家札がななめに貼られて……。
近処の人に、それとなく聞いてみると、
「サア、なんですかね。もうだいぶ前ですけれど、姐さんはバタバタ家をたたんで、どこか旅に出るとかって、フラッといなくなりましたよ。もう江戸にはいないと思いますがね」
という返事だ。
そこで。
鼓の与吉。
あちこちへ眼《まなこ》をはなって、世間のようすをながめると――。
チョビ安は泰軒先生に引き取られてトンガリ長屋の作爺さんの家に、お美夜ちゃんを加えて四人、水いらずの楽しい暮し……というところだが、泰軒とチョビ安、大小二人のかわり者が、作爺さんの屋根の下に居候にころがりこんでいるわけ。
「あのチョビ安を抱きこんで、ここでなんとか一芝居うってみてえものだが――」
とは思うものの、与の公、頭をかいて、
「どうも、あの泰軒てえ乞食野郎がいるあいだは、恐ろしくて寄りつけもしねえ」
手も足も出ない与吉。それでもまあどうやら丹波の御機嫌を取りなおして、妻恋坂道場の供待ち部屋にごろっちゃらしながら毎日、麻布林念寺前の柳生の上屋敷のあたりをうろつい
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