だがそれも、ちょっと変だと思っただけで、つぎの瞬間、あせりにあせって紙をめくりすすんでいくと、
「ア、あった! 出てきたぞ」
さけんだ主水正は、喜びにふるえる手で、剥ぎとった一枚の紙片を高大之進のほうへ突き出した。
見ると……。
虫食いのあとのいちじるしい紙に、何やら文字と、地図らしいものがしたためてある。
虫食いのあとは、線香で細長く焼いたので。
蓋に貼りこんであった古い奉書の一枚に、薄墨でそれらしく、愚楽老人が書いたのを、いま言ったように線香で焼いたり、ところどころ番茶でよごしたりして、古めかしく見せたものなのです。
「常々あ○○心|驕《おご》○て」
というあたりは、原物のとおりだが……どうも巧みに作ったものです。これなら誰が見ても、御先祖の書き物としか思えない。愚楽老人、実に達者なものだ。千代田の大奥で上様のお背中なんか流しているより、ほかに商売がありそうです。
ただ日光の金が将軍家から柳生へおりるでは、造営奉行に当たったものが費用万端を受け持つという、在来の慣習が破れてしまう。柳生も受け取ることはできなかろうと、そこで、吉宗、愚楽、大岡越前が相談のうえ、この細工を
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