いすみません」
 差し出す丸い蓋を、主水は待ちきれぬようにひったくって、しばらくジッとみつめていたが、
「うん、そうだ。この、年々上から上へと張り重ねてきた奉書の封の下に、貼りこめてあるに相違ない。イヤ、こことは誰も気がつかぬであろう。大之進! お家は助かりましたぞ。その床の間のわしの刀の小柄を取ってくれ――待っておれよ。今ここに、柳生の大財産の所在《ありか》をしるした、御先祖の地図を取り出してみせるからな。早く小柄を持ってまいれと言うに。えいッ。何をしておるのだ!」

       九

 壺の蓋をおしいただいた田丸主水正、大之進の抜きとってきた小柄で、丁寧に紙を剥ぎながら、
「高、儀作は?」
 若党儀作のことです。
「おります、さっき庭へ出ておりましたが……お呼びいたしましょうか」
「イヤ、旅立ちのしたくをさせてくれ」
「どこかへ御出発になるので?」
「いま埋宝の所在が明らかになるから、そうしたら、さっそく儀作を国おもてへ知らせに走らせようと思ってな」
「しかし、まだ……」
 ハテナ? と主水正は首をひねった。なんとなく、蓋に貼り重ねてある紙に、最近手をつけたような感じが見られる。
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