ござろう。誰にことわって、ここへはいってこられた!」
 それは、相手が誰かということも忘れたらしい、芸術心《たくみごころ》のほか何ものもない、阿修羅のようなものすごい形相であった。
「最後の鑿《のみ》を打つまでは、人に見せぬというのが、わしの心願じゃ。この山奥へこもっておるのもそのため。ごぞんじであろう」
 この剣幕に、対馬守もたじたじとして、
「いや、其方《そち》をわずらわしたその馬像《うまぞう》を、どこへすえるか、場所が決まったによって、ついては、もうどのくらいできたか、ちょっと見とうなってナ、つい……」
 主水正が、前へ出て、
「コレコレ! 作阿弥どの。言葉が過ぎようぞ。芸熱心はよいが、殿のおん前もわきまえず、あまり仕事に凝《こ》って、乱心でもされたか」
「どこへ置こうと、そんなことはわしの知ったことではない。早々出て行ってもらいたい」
「イヤ、許せ、許せ」
 対馬守は、かえってその一本気の工匠気質《こうしょうかたぎ》に、おもしろそうに眼を細めて、
「護摩堂の守護《まもり》として、長くあの前へ飾りおくことに決めたぞ、作阿弥」
 殿のお言葉を、主水正が受けついで、
「作阿弥どの。これには深いわけのあることなのじゃ。どういうものか、いつの御造営にも、あの護摩堂の壁がいちばん先にいたんで、たちまち落ちてならぬ。で、それに犠牲《にえ》をささげて、壁のたたりを納めるこころと、かねては、この御修覆の儀の事なく終わるを祈念されて、あの護摩堂の壁へ、母と子と二人の人柱を塗りこめることになったのじゃ」
 と聞いたときに、何やら作阿弥は、急に、不安な気もちがこみ上げてならなかった。
 いわゆる、胸騒ぎ……。
「人柱を? 母と子の――」
「うむ。そこで、その母子《おやこ》なきがらをのむ壁を、永遠に守り、かつ、見はるために、千里をゆく其方《そち》の駒《こま》を、あれなる護摩堂の前にすえようと一決したのじゃ。任は重いぞ、作阿弥! 母と娘のたましいをしずめる、気高き神馬《しんめ》を彫りあげてくれい」
 なぜか作阿弥は、気もそぞろの体《てい》で、
「そういたしますと、そ、その、母娘《おやこ》の人柱というのは、もうきまりましたので」
「客分として、大切にもてなしてあります。本人たちは、人柱などとは夢にも知らぬ。わしもまだ会いはしませぬが……」
 と、主水正が答えた。

   竹筒《たけづつ》
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