一

 田母沢《たもざわ》の橋を渡ってゆくと、左のほうに、大日堂《だいにちどう》。
 荒沢《あらざわ》の橋の手前から、道を右にとって登ってゆくと、裏見の滝に出ます。
 この滝道の途中に、雑木林のなかへ折れこんでゆく小みちがありますが、何も知らぬ近処《きんじょ》の人たちなどが、この道をはいってゆこうとすると、
 かたわらの草むらから、ぬっと二、三人の人影が立ちあがって、
「コラコラッ、いずこへまいる」
 お百姓などは、腰をかがめて、
「へえ、裏見の谷へ、草を刈りにまいりますので」
「いかん! この道を通すことはあいならん」
 二、三人が口をそろえて、
「名主よりお触れ書がまわっておるであろうが。さては貴様、無筆だな。イヤ、無筆なら無筆で、読み聞かせられておるはず」
「この道は通行禁止じゃ。この付近へ立ち寄ってはならぬぞ」
 きびしく叱りつけられて、追い返されてしまう。
 とんぼつりの子供など、まれに看視の眼をまぎれて、この林間の小みちをかなり奥まで迷いこんでゆくと……。
 むこうのこんもりした木立ちのかげにわらぶきの屋根が見える。ひっそりとして、人の住んでいる気配もない。
 が、この屋根の見えるところまで近づくのは、上乗の部で。
 たちまちどこからともなく、バラバラっと造営奉行の手付きらしい役人が現われて、「ウヌ! こんな所まではいりこんでくるとは、めっそうもない!」――とばかり。
 眼の玉がとび出るほどどなられて、送りかえされる。
 厳重をきわめている。
 この小さな百姓家一家を、十間おき、半町おき、一町おきといった具合に、幾重にも看視が伏してとりかこんでいると見える。
 家はさきごろまで、ちょっとした百姓が住んでいたと思われる、こぢんまりした住居《すまい》で、見たところなんの変哲もないが……いったい、こうまで水ももらさない見張りがつけられるとは、何者であろう。
 よほど凶悪な囚人《めしゅうど》!……でもあるかと思うと。
 家のなかには、品のいい武家の後室らしい女と、その娘のかあいい女の児、それに、二十《はたち》ばかりの美しい腰元が一人、食事その他の世話役に、ついているだけだ。
「マア、ほんとうに、いつまでこんなところに、こうしていなければならないのだろうねえ」
 と、今もお蓮様は、柿の枯れ葉の吹きこむ百姓家の小縁側《こえんがわ》に立って、ひとり
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