のだ――」
「知らぬ。家の中に、なにごとか起こったとみえる」
「烏《からす》の子が巣へ逃げこむように飛んで行きおった、ははははは」
「はっはっはっ、なにが何やら、わけがわからぬ」
ふたりは、腹をゆすって笑いあったが、左膳はふと真顔にかえって、
「わけがわからぬといえば、おれたちのやり口も、じぶんながら、サッパリわけがわからぬ。おれとおめえは、今夜はじめて会って、いきなり斬り結び、またすぐ味方となり、力をあわせて、この道場の者と渡り合った……とまれ、世の中のことは、すべてかような出たらめでよいのかも知れぬな、アハハハハ」
「邪魔者が去った、いま一手まいろうか」
闇の中で、あお白く笑った源三郎へ、丹下左膳は懶《ものう》げに手を振り、
「うむ、イヤ、また後日の勝負といたそう。おらアお前《めえ》をブッタ斬るには、もう一歩工夫が肝腎だ」
「いや、拙者も、尊公のごとき玄妙不可思議《げんみょうふかしぎ》な手筋の仁《じん》に、出会ったことはござらぬ。テ、テ、天下は広しとつくづく思い申した」
濡れ燕を鞘におさめた左膳と、峰丹波の刀を草に捨てて、もとの丸腰の植木屋に戻った柳生源三郎と――名人、名人を
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