、峰丹波がはいってきた。
やっと意識をとり戻してまもないので、髪はほつれ、色|蒼《あお》ざめて、そうろうとしている。
「先生ッ!」
とピタリ手をついて、
「お心おきなく……あとは、拙者が引き受けました」
こんな大鼠《おおねずみ》に引き受けられては、たまったものじゃない。
すると、先生、ぱっと眼をあけて、
「おお、源三郎どのか。待っておったぞ」
と言った。丹波がぎょっとして、うしろを振り向くと、だれもいない。死に瀕した先生の幻影らしい。
「源三郎殿、萩乃と道場を頼む」
丹波、仕方がないから、
「はっ。必ずともにわたくしが……」
「萩乃、お蓮、手を――手をとってくれ」
これが最後の言葉でした。先生の臨終と聞いて、斬合いを引きあげてきた多くの弟子たちが、どやどやッと室内へ雪崩《なだれ》こんできた。
四
一人が室内から飛んできて、斬りあっている連中に、何かささやいてまわったかと思うと……。
一同、剣を引いて、あわただしく奥の病間のほうへ駈けこんでいった後。
急に相手方がいなくなったので、左膳と源三郎は、狐につままれたような顔を見あわせ、
「なんだ、どうした
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