ょう》だが……」
 つぶやいた源三郎、ツと左膳の背に背押しをくれたかと思うと、上身を前へのめらして、
「ザ、ザ、雑魚《ざこ》一匹ッ!」
 つかえながら、横なぎの一刀、ふかく踏みこんできた一人の脇腹を諸《もろ》に割りつけて、
「…………!」
 声のない叫びをあげたその若侍は、おさえた手が、火のように熱い自分の腹中へ、手首までめいりこむのを意識しながら、グワッと土を噛み、もう一つの手に草の根をむしって――ものすごい断末魔。
 同時に左膳は。
 右へ来た一人をかわす秒間に、
「あははははは、あっはっはっは――」
 狂犬のような哄笑を響かせたかと思うと! 濡れつばめの羽ばたき……。
 もうその男は、右の肩を骨もろとも、乳の下まで斬り下げられて、歩を縒《よ》ってよろめきつつ、何か綱にでも縋ろうとするように、両手の指をワナワナとひらいて、夜の空気をつかんでいる。
 左膳のわらいは、血をなめた者の真っ赤な哄笑であった。
 不知火の一同、思わずギョッとして、とり巻く輪が、ひろがった。

   流《なが》れ星《ぼし》


       一

 庭には斬合いが……と聞いても、萩乃は、なんの恐怖も、興味も、
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