紺の法被《はっぴ》の腕ぐみをした瞬間、
「では、ごめん……」
 キラリ、丹波の手に、三尺ほどの白い細い光が立った。抜いたのだ。

       五

 あの与吉めが、あんなに泣いたり騒いだりして、取り戻そうとしたこの壺は、いったい何がはいっているのだろう……。
 左膳は、河原の畳にあぐらをかいて、小首を捻《ひね》った。
 竹のさきに蝋燭《ろうそく》を立てたのが、小石のあいだにさしてあって、ボンヤリ菰《こも》張りの小屋を照らしている。
 きょうから仮りの父子《おやこ》となった左膳と、チョビ安――左膳にとっては、まるで世話女房が来たようなもので、このチョビ安、子供のくせにはなはだ器用《きよう》で、御飯もたけば茶碗も洗う。
 珍妙なさし向いで、夕飯をすますと、
「安公」
 と左膳は、どこやら急に父親めいた声音《こわね》で、
「この壺をあけて見ろ」
 川べりにしゃがんで、ジャブジャブ箸を洗っていたチョビ安、
「あい。なんでも父《ちゃん》――じゃなかった、父上の言うとおりにするよ。あけてみようよね」
 と小屋へかえって、箱の包みを取りだした。布づつみをとって、古い桐箱のふたをあけ、そっと壺を取り
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