んで?」
「おめえより一足さきに、この小屋へ飛びこんで来たのだ」
 と聞いて与吉、急に気が強くなって、
「ヤイ! ヤイ! チョビ安といったナ。ふてえ畜生だ。こんなところへ逃げこんでも、だめだぞ。さ、その壺をけえせ!」
 と、どなったのだが、チョビ安はけろりとした顔で、
「何いってやんで! 小父ちゃんこそ、おいらからこの包みをとろうとして、追っかけて来たんじゃアねえか。乞食のお侍さん、あたいを助けておくんなね。この小父ちゃんは、泥棒なんだよ」

       二

 与吉はせきこんで、
「餓鬼のくせに、とんでもねえことを言やアがる。てめえが其箱《それ》を引っさらって逃げたこたア、天道さまも御照覧じゃあねえか」
「やい、与吉、おめえ、天道様を口にする資格はあるめえ」
 左膳のことばに、与吉がぐっとつまると、チョビ安は手を拍《う》って、
「そうれ、見な。あたいの物をとろうとして、ここまでしつこく追っかけて来たのは、小父ちゃんじゃあねえか。このお侍さんは、善悪ともに見とおしだい。ねえ、乞食のお侍さん」
 与の公は、泣きださんばかり、
「あきれた小倅《こせがれ》だ。白を黒と言いくるめやがる。やい
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