! この壺は、こどものおもちゃじゃねえんだぞ。こっちじゃア大切なものだが、何も知らねえお前《めえ》らの手にありゃあ、ただの小汚《こぎた》ねえ壺だけのもんだ。小父ちゃんが褒美《ほうび》をやるから、サ、チョビ安、器用に小父ちゃんに渡しねえナ」
「いやだい!」チョビ安は、いっそうしっかと壺の箱を抱えなおして、
「あたいのものをあたいが持ってるんだ。小父ちゃんの知ったこっちゃアねえや」
 眼をいからした与吉、くるりと裾をまくって、膝をすすめた。
「盗人|猛々《たけだけ》しとはてめえのこったぞ。いいか、現におめえは、おいらの預けたその箱をさらって、ドロンをきめこみ、いいか、一目山随徳寺《いちもくさんずいとくじ》と――」
「うめえうそをつくなあ!」
 とチョビ安は、感に耐えた顔だ。
 与吉、ピタリとそこへ手をついたものだ。
「チョビ安様々、拝む! おがみやす。まずこれ、このとおり、一生の恩に被《き》やす。どうぞどうぞ、お返しなされてくだされませ」
「ウフッ! 泣いてやがら。おかしいなあ!」
「なにとぞ、チョビ安大明神、ところてんじくから唐《から》日本の神々さま、あっしを助けるとおぼしめして――」

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