な左膳の微笑。
「二本さして侍《さむれえ》だといったところで、主君や上役にぺこぺこしてヨ、御機嫌をとらねえような御機嫌をとって、仕事といやア、それだけじゃアねえか。おもしろくもねえ。かく河原住まいの丹下左膳、こんなさっぱりしたことはないぞ」
「へえ、さようで――」
と、撥《ばち》をあわせながら、与吉、気が気でない。その左膳のうしろに、あのチョビ安の小僧が、お小姓然と、ちゃんと控えているんで。
しかも、こけ猿の包みを両手に抱えて。
妙《みょう》な裁判《さいばん》
一
この丹下左膳は。
いつか、金華山沖あいの斬り合いで、はるか暗い浪のあいだに、船板をいかだに組んで、左膳の長身が、生けるとも死んだともなく、遠く遠く漂い去りつつあった……はずのかれ左膳、うまく海岸に流れついたとみえて、こうしていつのまにか、ふたたび江戸へまぎれこみ、この橋の下に浮浪の生活をつづけていたのだ。
が、いまの与吉には、そんなことは問題でない。
左膳のうしろにチョコナンとすわっているチョビ安をにらんで、どう切りだしたものかと考えている。
何しろ、チョビ安のそば、左膳の左手のすぐ
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