ている。
 筵張りのなかは、石ころを踏み固めて、土間になっている。そのまん中へ、古畳を一まい投げだして、かけ茶碗や土瓶といっしょに、ごろり横になっているのは……。
 隻眼隻腕の剣怪、丹下左膳。
 箒《ほうき》のような赭茶《あかちゃ》けた毛を、大髻《おおたぶさ》にとりあげ、右眼はうつろにくぼみ、残りの左の眼は、ほそく皮肉に笑っている。
 その右の眉から口尻へかけて、溝のような一線の刀痕――まぎれもない丹下左膳だ。
 黒襟かけた白の紋つき、その紋は、大きく髑髏《しゃれこうべ》を染めて……下には、相変わらず女ものの派手な長襦袢《ながじゅばん》が、痩せた脛《すね》にからまっている。
「おめえか」
 と左膳、塩からい声で言った。
「ひさしぶりじゃアねえか。よく生きていたなア」
「へへへへへ、殿様こそよく御存命で、死んだと思った左膳さま、こうして生きていようたア、お釈迦さまでも――」
 右腕のない左膳、右の袖をばたばたさせて、ムックリ起きあがった。
 与吉はわざと眼をしょぼしょぼさせて、
「しかし、もとより御酔狂ではござんしょうが、このおん痛わしいごようす――」
「与吉といったナ」
 と、刻むよう
前へ 次へ
全542ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング