ながら、玄心斎、柿いろ羽織の袂をひるがえして、サッ! 障子をあけた。
「殿ッ! さような者とおられる場合ではござらぬ。だいぶ話がちがいまするぞ」
夜なので、行燈はすっかり出はらって、がらんとした部屋……煽《あお》りをくらった手燭が一つ、ユラユラと揺れ立って、伊賀の若様の蒼白い顔を、照らし出す。
兄対馬守をしのぐ柳生流のつかい手、柳生源三郎は、二十歳《はたち》か、二十一か、スウッと切れ長な眼が、いつも微笑《わら》って、何ごとがあっても無表情な細ながい顔――難をいえば、顔がすこし長すぎるが、とにかく、おっそろしい美男だ。
今でいえば、まあ、モダンボーイ型というのだろう。剣とともにおんなをくどくことが上手《じょうず》で、その糸のような眼でじろっと見られると、たいがいの女がぶるると嬉しさが背走《せばし》る。
そして、源三郎、片っぱしから女をこしらえては、欠伸《あくび》をして、捨ててしまう。
今もそうで、旅のうらない師というこの若い女を引き入れているところへ、ちょっと一目《いちもく》おかなければならない玄心斎の白髪あたまが、ぬうっと出たので、源三郎、中《ちゅう》っ腹《ぱら》だ。
「み、
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