うしろ》からは、与吉待てえ、与吉待てえと、ガヤガヤ声をかけて追ってくるが、こいつばかりは、へえといって待つわけにはいかない。
ぐるっと角をまがって、佐竹様のおもて御門から、木戸をあけて飛びこんだ。御門番がおどろいて、
「おい、コラコラ、なんじゃ貴様は」
あっけにとられているうちに、
「へえ、ごらんのとおり人間で――人ひとり助けると思召《おぼしめ》して」
と与吉、たちさわぐ佐竹様の御家来に掌《て》を合わせて拝みながら、御番衆が妙なやつだナと思っているうちに、ぬけぬけとしたやつで、すたすた御邸内を通りぬけて、ヒョックリさっきの横町へ出てまいりました。
「ざまア見やがれ。ヘッ、うまく晦《ま》いてやったぞ」
ところが、与吉、二度びっくり――ところてんのチョビ安が、こけ猿の茶壺とともに、影もかたちもないんで。
四
ところ天の荷は、置きっ放しになっている。
あわてた与吉が、ふと向うを見ると、こけ猿の包みを抱えたチョビ安が、尻切れ草履の裏を背中に見せて、雲をかすみととんでゆくのだ。
安積玄心斎の一行は、与吉にあざむかれて、横町へ切れて行ったものらしく、あたりに見えない
前へ
次へ
全542ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング