揃ったもんだと、与吉は、大得意だ。今ごろは、吠え面《づら》かいて探してるだろうが、ざまア見やがれ――。
 いい若い者が、何か四角い包みを抱えて、ニヤニヤ思い出し笑いをしながら行くから変じァないかと、道行く人がみんな気味わるそうに、よけて行く。
 しかし、こんな騒ぎをして、わざわざこんなものを盗みださせる妻恋坂のお蓮さんも、峰丹波様も、すこし酔狂がすぎやアしねえか――。
「萩乃どのの婿として乗りこんでくる源三郎様には、すこしも用がない」
 と、この命令を授ける時、峰の殿様がおっしゃったっけ……。
「彼奴《きゃつ》は、あくまでも阻止せねばならぬ。が、その婿引出に持ってまいるこけ猿の茶壺には、当方において大いに用があるのだ」
 そして、丹波、抜からず茶壺を持ち出せと、すごい顔つきで厳命をくだしたものだが、してみると――。
 してみると……この茶壺の中は、空《から》じゃアないかも知れない。
 そう思うと、なんだかただの茶壺にしては、重いような気がして来た。
 与吉は、矢も楯もなく、今ここで箱をあけて、壺のなかを吟味したくてたまらなくなりました。
 好奇心は、猫を殺す――必ずともに壺のふたを取る
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