だきたい」
「オウ、おさむれえさん。おめえ、何か感ちがいしていやアしませんかい」
植木屋は、ペコペコあたまを掻いて、
「御尊名と来た! おどろき桃の木――あっしあ、根岸の植留の若えもンで、金公《きんこう》てえ半チク野郎で、へえ」
「なんと仰せられます。ただいまのは、柳生流秘伝銀杏返し……お化けなすっても、チラと尻尾が見えましてござります、しっぽが!」
「へ?」
と金公、キョトンとした顔。
二
うたたねの夢からさめた櫛《くし》まきお藤《ふじ》は、まア! とおどろいた。
じぶんの昼寝のからだに、いつの間にか、意気な市松《いちまつ》のひとえが、フワリとかけてあるのである。
「まあ! あんなやつにも、こんな親切気があるのかねえ」
と、口の中で言って、とろんとした眼、自暴《やけ》に髪の根を掻いている。
ここは、浅草駒形《あさくさこまがた》、高麗屋敷《こうらいやしき》の櫛まきお藤のかくれ家です。縁起棚の下に、さっき弾きあきたらしい三味線が一|梃《ちょう》、投げだしてあるきり、まことに夏向きの、ガランとした家で、花がるたを散らしに貼った地ぶくろも、いかさまお藤|姐御《あ
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