すべて通じているから、今その小柄がツーイと流れて、石燈籠の胴《どう》ッ腹《ぱら》へぶつかって撥《は》ねかえったのを見ると、丹波、まっ青になった。
「ウーム!」
 と呻《うめ》いて、縁に棒立ちです。
 植木屋は?
 と見ると、その蒼白い顔を、相変わらずニコニコさせて、萩乃とお蓮さまへ目礼、スタスタ行っちまおうとするから、丹波、こんどはあわてて、
「お待ちを……ちょっとお待ちを願います」
 ことばづかいまで一変、ピタリ縁にすわって、
「まさか、あなた様は――?」
 恐怖と混迷で、丹波の顔は汗だ。
 お蓮さまと萩乃は、おんなのことで、剣術なんかわからないから、小柄が横にそれただけのことで、この傲岸《ごうがん》な丹波が、どうしてこう急に恐れ入ったのだろう……何かこの植木屋、おまじないでもしたのかしら、と、ふしぎに思って見ている。
「柳生流をあれだけお使いなさるお方は……」
 と、丹波小首を捻《ひね》って、
「ほかにあろうとは思われませぬ。違いましたら、ごめんこうむるといたしまして、もしかあなたさまは、あの――イヤ、しかし、さようなことがあろうはずはござらぬ。御尊名を……ぜひ御尊名を伺わせていた
前へ 次へ
全542ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング