い。
「山吹色の砂糖菓子か。なるほど、それだけの菓子があったら、日光御用は、誰にでもつとまるじゃろうからの、余も安堵《あんど》いたした」
「へへッ」
皮肉をのこして、そのままスッとお立ちです。諸侯連、控えの間へさがると現金なもので、
「伊達侯、首がすっと伸びたではないか」
「わっはっはっは、それはそうと柳生の御家老、御愁傷なことで」
みんな悔《くや》みをいいにくる。
「しかし、おかげでわれわれは助かった。柳生様々じゃ」
いろんな声にとりまかれながら、色蒼ざめて千代田城を退出した田丸主水正、駕籠の揺れも重くやがてたちかえったのは、そのころ、麻布本村町《あざぶほんむらちょう》、林念寺前《りんねんじまえ》にあった柳生の上屋敷。
「お帰り――イ」
という若党|儀作《ぎさく》の声も、うつろに聞いて、ふかい思案に沈んでいた主水正、あわてふためいて用人部屋へ駈けあがるが早いか、
「おい、おいっ! だれかおらぬか。飛脚じゃ! お国おもてへ、急飛脚じゃ!」
折《お》れよとばかり手をたたいて、破《わ》れ鐘《がね》のような声で叫んだ。
恋《こい》不知火《しらぬい》
一
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