場の武骨ものが、同勢百五十三人、気のおけない若先生をとりまいて、泊まりかさねてここまで練ってきて、明朝《あす》は、江戸へはいろうというのだから、今夜は安着の前祝い……若殿源三郎から酒肴《しゅこう》がおりて、どうせ夜あかしとばかり、一同、呑めや唄えと無礼講の最中だ。
 ことに、源三郎こんどの東《あずま》くだりは、ただの旅ではない。はやりものの武者修行とも、もとより違う。
 源三郎にとって、これは、一世一代の婿《むこ》入り道中なのであった。
 江戸は妻恋坂《つまこいざか》に、あの辺いったいの広大な地を領して、その豪富《ごうふ》諸侯《しょこう》をしのぎ、また、剣をとっては当節府内にならぶものない十方不知火流《じっぽうしらぬいりゅう》の開祖、司馬《しば》老先生の道場が、この「伊賀のあばれん坊」の婿いりさきなのだ。
 司馬先生には、萩乃《はぎの》という息女があって、それがかれを待っているはず――故郷《くに》の兄、柳生対馬守と、妻恋坂の老先生とのあいだには、剣がとり持つ縁で、ぜひ源三郎さまを萩乃に……という固い約束があるのである。
 で、近く婚礼を――となって、伊賀の暴れん坊は、気が早い。さっそく
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