か。なるほど、顔を見ると年寄りに相違ないが――身体は、こどもだ。まるで七つ八つの子供だ。
 身長三尺……それでいて、白髪をチョコンと本多に結い、白い長い眉毛をたらし、分別くさい皺《しわ》ぶかい顔――うしろから見ると子供だが、前から見ると、このこどものからだに、大きな老人の顔がのっかっている異形な姿。
 おまけに、この愚楽老人亀背なんです。
 そいつが、白羽二重のちゃんちゃんこを一着におよんで、床屋の下剃り奴《やっこ》のはくような、高さ一尺もある一本歯の足駄をはいて、
「ごめん――」
 太いしゃ嗄《が》れ声でいいながら、将軍さまのうしろにまわり、しごくもっともらしい顔つきで、ジャブジャブ背中を洗いはじめたから、こいつは奇観だ。
 すると、八代様、思いだしたように、
「のう、愚楽、来年の日光の御造営は、誰に当てたものであろうのう」
 と、きいた。

       二

 二十年目、二十年目に、日光東照宮の大修繕をやったものだった。
 なにしろ、あの絢爛《けんらん》をきわめた美術建築が、雨ざらしになっているのだから、ちょうど二十年もたてば、保存の上からも、修理の必要があったのだろうが、それよ
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