りも、元来、徳川の威を示し、庶民を圧伏《あっぷく》するのが目的で建てられた、あの壮麗眼をうばう大祖廟《だいそびょう》だから、この二十年目ごとの修営も、葵《あおい》の風に草もなびけとばかり、費用お構いなし、必要以上に金をかけて、大々的にやったもので。
 もっとも、幕府が自分でやるんではない。
 諸侯の一人をお作事《さくじ》奉行に命じて、造営費いっさいを出させるんです。人の金だから、この二十年目のお修復にはじゃんじゃんつかわせた。
 これにはまた、徳川としては、ほかに意味があったので――。
 天下を平定して、八世を経てはいるが、外様の大大名が辺国に蟠踞《ばんきょ》している。外様とのみいわず、諸侯はみな、その地方では絶大の権力を有し、人物才幹《じんぶつさいかん》、一|癖《くせ》も二|癖《くせ》もあるのが、すくなくない。
 謀叛《むほん》のこころなどはないにしても、二代三代のうちに自然に金が溜まって、それを軍資にまわすことができるとなれば、ナニ、徳川も昔はじぶんと同格……という考えを起こして、ふと、反逆心が兆《きざ》さぬでもない。
 それを防ぐために、二十年目ごとに、富を擁《よう》しているらし
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