峰丹波、岩淵達之助、等々力十内等重立った門弟だけでも、四、五十を数えるほど並んでいる。
 緋《ひ》の袈裟《けさ》、むらさきの袈裟――高僧の読経《どきょう》の声に、香烟、咽ぶがごとくからんで、焼香は滞《とどこお》りなくすすんでゆく。
 亡き父への胸を裂く哀悼と、あの、名もない若い植木屋への、抉《えぐ》るような恋ごころとの、辛い甘い、ふしぎな交錯に身をゆだねて、ひとり居間にたれこめていた萩乃は、侍女にせきたてられて白の葬衣をまとい、さっき、手を支えられてこの間へ通ったのだったが、着座したきり、ずっとうつむいたままで……。
 気がつかないでいる――じぶんの隣、継母のお蓮さまとのあいだに、裃に威儀を正した端麗な若ざむらいが、厳然と控えていることには。
 吉凶いずれの場合でも、人寄せのときには、不知火銭にまじえて、ただ一つ、自分が御礼と書いた包みを投げ、それを拾った者はたとえ足軽でも、樽《たる》ひろいでも、その座に招《しょう》じて自分のつぎにすわらせる例。
 今度も、昨夜、おひねりの一つに御礼と書かされた。
 だから、誰か一人この場に許されているはずだが……それもこれも、萩乃はすべてを忘れ果てて
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