人熱望の的たる萩乃さまお墨つきの不知火銭だったので。
にくらしくても、反感《はんかん》は抱いていても、人間には、強い颯爽《さっそう》たるものを無条件に讃美し、敬慕する傾向《けいこう》があります。
力こそは善であり、力こそは美であるとは、いつの時代になりましても、真理のひとつでありましょう。
今。
これだけ群衆を蹂躙《じゅうりん》し、その憤激を買った源三郎ではありますが……。
その手に御礼のお捻りが握られて、馬上高く差し示しているのを見ると、人々は、いまの今までの憎悪や怒りをうち忘れて、わっと一時に、割れるような喝采《かっさい》を送った。
色の抜けるほど白い、若い源三郎が、今まで片袖はずしていた裃の肩を入れて、馬上ゆたかに威をととのえ、ちいさな紙づつみを持った手を、さっと門へむかって突きだしたところは……さながら何か荒事《あらごと》の型にありそう。
江戸っ児は、たあいがない。
こんなことで、ワーッと訳もなく嬉しがっちまうんで。
「イヨウ! 待ってましたア!」
「天下一ッ!」
なにが天下一なんだか、サッパリわからない。
何か賞《ほ》めるとなると、よく両国《りょうごく》の
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