せかけるが、源三郎はにこにこして、ピタリ、門前に馬をとめたままです。つづく一同も、汗馬を鎮めて無言。
「おおい、お馬のおさむれえさん! おめえのおかげで、おらア、お嬢さんのおひねりを拾いそこねたじゃアねえか」
なんかと、ずっと向うにいるものだから、安全地帯と心得て、恨みをいうやつもいる。
丹波につぐ高弟、岩淵達之助《いわぶちたつのすけ》と、等々力《とどろき》十|内《ない》のふたりが、門ぎわに立ちあらわれました。
「御礼と萩乃様お筆のあとのある、たった一つの銭包みを拾った者はないか」
「そのつつみを手に入れた人は、出てこられたい。奥へ御案内申す」
「ないのかな、だれも拾わぬのか」
みんな今更のように、自分の拾ったお捻りを見たりして、群衆がちょっとシーンとなった瞬間、
「ホホウ、こ、この包みに、墨で御礼とある……」
と、伊賀の若様が馬上高く手をあげました。
四
いま丹波が最後に、源三郎をねらって三宝もろとも、はっしとばかり銭包みを投げ落とした瞬間――!
源三郎、眼にもとまらぬ早業で、その一つを掴みとったのだったが、意外といおうか、偶然と言おうか、それこそは、諸
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