す限り人間の手があがって、掴もうとする指が、まるでさざなみのように、ひらいたりとじたりするぐあい、じっと見てると、ちょうど穂薄《ほすすき》の野を秋風が渡るよう……壮観だ。
「お侍さまっ! どうぞこっちへお撒きくださいっ」
と、女の声。かと思うと、
「旦那! あっしのほうへ願います。あっしゃアまだ三つしか拾わねえ」
あちこちから呶声がとんで、
「三つしか拾わぬとは、なんだ。拙者はまだ一つもありつかぬ」
「この野郎、三つも掴みやがって、当分不知火銭で食う気でいやアがる」
中には、お婆さんなんか、両手に手ぬぐいをひろげて、あたまの上に張っているうちに、人波に溺れて群衆の足の間から、
「助けてくれッ!」
という始末。おんなの悲鳴、子供の泣き声……中におおぜいの武士がまじっているのは、武士は食わねど高楊枝などとは言わせない、皮肉な光景で。
もっとも、さむらいは、例外なしに萩乃様のおひねりが目的だから、躍りあがって掴んでみては、
「オ! これは違う。おっ! とこれもちがう……」
違うのは、捨てるんです――じぶんの袂へ。
この大騒動の真っ最中、もう一つ騒動が降って湧いたというのはちょう
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