弔客や弟子たちの右往左往するおもて座敷のほうには、見えなかった。
 やがてのことに、わっとひときわ高く、諸人のどよめきがあがったのは、いよいよ吉凶禍福《きっきょうかふく》につけ、司馬道場の名物の撒銭《まきぜに》がはじまったのである。
 江都評判の不知火銭……。
 白無垢《しろむく》の麻裃をつけた峰丹波、白木の三宝にお捻りを山と積み上げて、門前に組みあげた櫓のうえに突っ立ち、
「これより、撒《ま》きます――なにとぞ皆さん、ともに、故先生の御冥福をお祈りくださるよう」
 どなりました。りっぱな恰幅《かっぷく》。よくとおる声だ。
 すると、一時に、お念仏やお題目の声が、豪雨のように沸き立って、
「なむあみだぶつ、なんみょうほうれんげきょう……!」
 丹波は一段と声を励まし、
「例によって、このなかにたった一つ、当家のお嬢様がお礼とおしたためになった包みがござる。それをお拾いの方は、どうぞ門番へお示しのうえ、邸内へお通りあるよう、御案内いたしまする」
 バラバラッ! と一掴み、投げました。

   招かざる客


       一

 ひとつの三宝が空《から》になると、あとから後からと、弟子が
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