終わり]
 と書いた。百二十いくつの一風宗匠から見れば、やっと三十に近い柳生対馬守など、赤ん坊どころか、アミーバくらいにしかうつらないらしい。
 だから、いくら殿様でも対馬守、この一風宗匠に叱られるのは、毎度のことで、ちっともおどろかないが、金は何ほどでもある故に、騒ぐまいぞえ……という意外な文句に、ピタリ、驚異の眼を吸いつけられて、
「金はいくらでもあるという――」
 呻いたひとりごとが、すぐそばの寄りつきに待つ側近の人々の耳にはいったから、一同、わっと腰を浮かして、気の早い喜田川頼母《きたがわたのも》などは、
「金はいくらでもござりますと? どこに、どこに……」
 茶室へ駈けあがって来ようとするのを、寺門《てらかど》七|郎右衛門《ろうえもん》がとめて、
「まア、待たれい! この話には落ちがあるようだ。文献によれば、三百万両積んだ和蘭《オランダ》船が、唐の海に沈んでおるそうじゃから、それを引きあげればなんでもないとか、なんとか――」
「さよう、一風宗匠のいうことなら、おおかたそこらが落ちでござろう」
 と、もう一人が口をとがらし、
「城下のおんなどものかんざしを取りあげて、小判に打ち
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