脱俗に仙味をおびてまいります。岩石か何か超時間的な存在を見るような、一種グロテスクな、それでいて涼しい風骨《ふうこつ》が漂っている。
この暑いのに茶の十徳を着て、そいつがブカブカで貸間だらけ、一風宗匠は十徳のうちでこちこちにかたまっていらっしゃる。皮膚など茶渋を刷《は》いたようで、ところどころに苔のような斑点が見えるのは、時代がついているのでしょう。
髪は、白髪をとおりこして薄い金いろです。そいつを合総《がっそう》にとりあげて、口をもぐもぐさせながら、矢立と筆をつき出したのを、対馬守はうなずきつつ受け取って、
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「明年の日光御用、当藩に申し聞けられ候も、御承知の小禄、困却このことに候、腹掻っさばき、御先祖のまつりを絶てばとて、家稷《かしょく》に対し公儀に対し申し訳相立たず、いかにも無念――」
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対馬守がそこまで書くのを、子供のようににじりよって、わきからのぞきこんでいた一風宗匠、やにわに筆をもぎとって、
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「短気はそんき、とくがわの難題、なにおそれんや」
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達筆です。一気に書き流した一風
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