く煤けている。
「どうじゃ、爺。その後は変わりないかな。こまったことが起きたぞ」
 対馬守は、そういって、よりつきから架燈口《かとうぐち》をあけた。家臣たちは、眼白押しにならんで円座にかける。
 三|畳台目《じょうだいめ》のせまい部屋に、柿のへた[#「へた」に傍点]のようなしなびた老人がひとり、きちんと炉ばたにすわって、釜の音を聞いている。
 老人も老人、百十三まで年齢《とし》を数えて覚えているが、その後はもうわからない、たしか百二十一か二になっている一風宗匠《いっぷうそうしょう》という人で、柳生家の二、三代前のことまですっかり知っているという生きた藩史。
 だが、年が年、などという言葉を、とうに通り過ぎた年なので、耳は遠いし、口がきけない。
 でも、この愛庵の帝釈山の茶室を、殿からいただいて、好んで一人暮しをしているくらいだから、足腰は立つのです。
 一風宗匠は、きょとんとした顔で対馬守を迎えましたが、黙って矢立と紙をさし出した。これへ書け……という意味。

       三

 誰の金魚を殺すかと、お風呂場での下相談の際。
 柳生は、剣術はうまかろうが、金などあるまい……とおっしゃ
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