ざんだもんだ。電話番号にしたって、あんまり感心しない……田丸主水正は、そんなことを思いながら、道はここから東海道本筋から離れて、文居《もんい》、藤堂佐渡守様《とうどうさどのかみさま》、三万二千石、江戸より百六|里《り》。
つぎが、長野《ながの》、山田《やまだ》、藤堂氏の領上野、島ヶ原、大川原と、夜は夜で肩をかえ、江戸発足以来一|泊《ぱく》もしないで、やがて、柳生の里は、柳生対馬守|御陣屋《ごじんや》、江戸から百十三里です。
こんもりと樹のふかい、古い町だ。そこへ、江戸家老の早駕籠が駈けこんできたのだから、もし人あって山の上から見下ろしていたなら、両側の家々から、パラパラッと蟻《あり》のような人影が走り出て、たちまち、二ちょうの駕籠は、まるで黒い帯を引いたよう……ワイワイいってついてくる。
何ごと? と町ぜんたい、一時に緊張した中を、一直線に対馬守の陣屋へ突っこんだ駕籠の中から、田丸主水正、ドサリ敷き台にころげ落ちて、
「金魚が――金魚が……」
立ち迎えた柳生家の一同、あっけにとられて、
「田丸様ッ、しっかり召されっ! しきりに金魚とおおせらるるは、水か。水が御所望かっ?」
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