大きな膏薬を貼ったのやら……。
 エイ! ホウ! トットと最初《はな》から足をそろえて、息杖振って駈け出しました。
 吉田を出ると、ムッと草の香のする夏野原……中の二人は、心得のある据わり方をして、駕籠の天井からたらした息綱につかまってギイギイ躍るのも、もう夢心地――江戸から通しで、疲れきっているので。

       二

 坂へかかって駕籠足がにぶると、主水正は夢中で、胸に掛けたふくろから一つかみの小銭《こぜに》をつかみ出し、それをガチャガチャ振り立てて、
「酒手《さかて》ッ……酒手ッ――!」
 余分に酒手をやるという。じぶんでは叫んでるつもりだが、虫のうめきにしか聞こえない。
 長丁場で、駕籠かきがすこしくたびれてくると、主水正、「ホイ、投げ銭だ……」
 と駕籠の中から、パラパラッと銭を投げる。すると、路傍にボンヤリ腰かけていた駕籠かきや、通行の旅人の中の屈強で好奇《ものずき》なのが、うしろから駕籠かきを押したり、時には、駕籠舁きが息を入れるあいだ、代わってかついで走ったり……こんなことはなかったなどと言いっこなし、とにかく田丸主水正はこうやって、このときの早駕籠《はや》を乗り切
前へ 次へ
全542ページ中104ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング