大きな膏薬を貼ったのやら……。
エイ! ホウ! トットと最初《はな》から足をそろえて、息杖振って駈け出しました。
吉田を出ると、ムッと草の香のする夏野原……中の二人は、心得のある据わり方をして、駕籠の天井からたらした息綱につかまってギイギイ躍るのも、もう夢心地――江戸から通しで、疲れきっているので。
二
坂へかかって駕籠足がにぶると、主水正は夢中で、胸に掛けたふくろから一つかみの小銭《こぜに》をつかみ出し、それをガチャガチャ振り立てて、
「酒手《さかて》ッ……酒手ッ――!」
余分に酒手をやるという。じぶんでは叫んでるつもりだが、虫のうめきにしか聞こえない。
長丁場で、駕籠かきがすこしくたびれてくると、主水正、「ホイ、投げ銭だ……」
と駕籠の中から、パラパラッと銭を投げる。すると、路傍にボンヤリ腰かけていた駕籠かきや、通行の旅人の中の屈強で好奇《ものずき》なのが、うしろから駕籠かきを押したり、時には、駕籠舁きが息を入れるあいだ、代わってかついで走ったり……こんなことはなかったなどと言いっこなし、とにかく田丸主水正はこうやって、このときの早駕籠《はや》を乗り切
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