籠をおろした二組の相棒、もう、駕籠へくるっと背中を見せて、しゃがんでいる。
駕籠は二|梃《ちょう》――早籠《はや》です。
先なる駕籠の垂れをはぐって、白髪あたまをのぞかせたのは、柳生対馬守の江戸家老、田丸主水正《たまるもんどのしょう》で、あとの駕寵は若党|儀作《ぎさく》だ。
金魚くじが当たって、来年の日光御用が柳生藩に落ちたことを、飛脚をもって知らせようとしたが、それよりはと、主水正、気に入りの若党ひとりを召しつれて、東海道に早籠《はや》を飛ばし、自分で柳生の里へ注進に馳せ戻るところなので……。
駕籠から首をつき出した田丸主水正、「おいっ! 早籠《はや》じゃ。御油《ごゆ》までなんぼでまいるっ」
駅継《えきつ》ぎなのです。
筆を耳へはさんだ問屋場の帳づけが、
「へえ、二里半四町、六十五|文《もん》!」
「五十|文《もん》に負けろっ!」
円タクを値切るようなことをいう。
「定《き》めですから、おウ、尾州《びしゅう》に因州《いんしゅう》、土州《としゅう》に信州《しんしゅう》、早籠《はや》二梃だ。いってやんねえ」
ノッソリ現われたのは、坊主あたまにチャンチャンコを着たのや、股に
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