ったとき、左膳はギョッとしたのだったが、もうおそかった。板が割れると同時に、左膳のからだは直立の姿勢のまま、一直線に地の底へ落ちたのである。からだの両脇に土を摺《す》って、風が、下からふいた。四、五|丈《じょう》も落ちたであろうか。猛烈な勢いで、全身横ざまに地底をうち、ハッと気がつくと、そこは、土を四角にきりひらいた四畳半ほどの小部屋である。
 落ちながら刀をはなさなかったので、濡れ燕を杖に、いたむ身をささえてやっと起きあがろうとすると、闇黒《やみ》の中に声がした。
「おお! ササ、左膳じゃアねえか。丹下左膳、ひさしぶりだなア。あはははは、その後は御無沙汰……」

   水《みず》滴々《てきてき》


       一

 左膳は、ただ一直線におちたような気がしたが。
 穴は垂直ではなかった。
 直径三尺ほどの幅に、急な勾配をもってずっとこの地底のあなぐらへ通じているのである。
 察するところ、その地下室は、地上の穴から斜めに入りこんで、ちょうどあの、路傍を流れる三方子川《さんぼうしがわ》の真下にあたっているらしい。
 左手に濡れ燕を突いて起きあがった左膳、したたか腰をうったらしく、抜けるようにいたい。
「イヤ、不覚……」
 苦笑しながら、掘りたての土軟《やわら》かな床へ、刀を突きさし、ひだり手で腰のあたりをさすろうとした時……今あの、タ、丹下左膳ではないか、ひさしぶりだナ、その後は御無沙汰、という声がしたのだ。
「誰だっ?」
 左膳、濡れ燕をかまえるが早いか壁に飛びのいて、眼をこらした。
 地の底……。
 幾丈とも知れない地下で、地上からの穴は急勾配《きゅうこうばい》なのだから、闇のなかに、どこやらかすかに外光《がいこう》がただよっているにすぎない。
 が、声をかけた人は、この暗黒になれているらしく、
「キ、貴殿も足を踏みはずしたのか。ハハハハハ、やられたな」
 という声は、伊賀の暴れん坊、柳生源三郎である。
 左膳もそれと気づいて、
「源三じゃアねえか。お前《めえ》はこの司馬寮の火事で、焼け死んだと聞いたが、さては、ここは冥府《よみじ》とみえる。してみると、おれもあの世へきたのかな」
 うすく笑って、左膳、声のするほうをすかして見ると、柳生源三郎のほのぼのとした白い顔が、その、四畳半ほどの真ん中にキチンと静座しているのが、彼の一眼にもうっすらと見えてきた。
「イヤ、源三、お前ははかられて、このおとし穴へ落ちこんだのだろうが、おれは、時のはずみでおちたのだ」
 左膳はそう言って、源三郎の前にドッカと胡坐《あぐら》。
 剣をもってふしぎな運命にむすばれる二人。
 この思いがけない地底で、ふたたび顔をあわせたのだ。
「何から話してよいやら……」
 と源三郎も、心からなつかしそうである。
 左膳が、つづけた。
「この罠《わな》は、火事にまぎれてお前《めえ》を落としこむために、こしらえたものに相違ねえ。お前《めえ》は見事、それにかかったわけだが、丹波のやったこの仕事を、おれの相手の伊賀侍が知るはずはねえのだから、おれはかってにおちたようなもので――しかし、驚いた。だが、おかげてこうして、死んだと思った伊賀の暴れん坊にめぐりあったのは、左膳、こんな安心したことはねえ。これも、今おれの手にはいっている、こけ猿の茶壺の手引きにちげえねえのだ」
 悠然と笑う左膳の片手を、源三郎、喜びと驚きにギュッと握りしめて、
「ナニ、こけ猿はいま貴公の手にある?」
「ウム、開きかけた壺をそのままに、貴様の災難を聞いたので、飛んできたまではいいが、おれもそのお供をしてこの始末よ、あははははは」
 二人は、フッと話をきった。
 どこやら闇のなかに、ポタリ! ポタリと、水のしたたる音がする……。

       二

 たとえば、豪雨がやんで、雲の切れめから青空がのぞくころ。
 屋根の流れを集めた樋《とい》が、まだ乾きもやらず、大粒な雨垂《あまだ》れをたたくように地面へ落とす。
 それによく似たひびきである。
 ポタッ! ポタッ! と、一定の間をおいて、だるい水の音がせまい部屋にこもる。
 天井のどこかから水が落ちて、床の土をうつのらしい。
 ふたりは、べつに気にもとめずに、話をつづけて、左膳が、
「こうと知ったら、お前《めえ》なんざあ見殺しに、おらアあの壺の教えるところにしたがって、お前の先祖の埋めた大宝を掘りだしに行きゃアよかった」
 剣友の無事な顔を見て、安堵の胸をさすった左膳、どうあっても源三郎を見殺しにすることはできないくせに、こうして顔を突きあわせていると、男同士の、口がわるいのだった。
「柳生の金は、柳生のものだ」
 と、にがく言う源三郎へ、左膳はおッかぶせるように笑って、
「掘り出した埋宝の中から、日光にいるだけの金を柳生に返しゃあ、あとは、天
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