下の財産だ」
「日光? フム、貴公は容易ならぬことを知っておるな」
「蒲生泰軒の矢文で、おれはなんでも知っておる。片眼でも、お前の両眼以上に見えるのだ」
「ナニ? 蒲生泰軒! 矢文?」
「まア、おれのことはいいやな。それより、おめえはどうしてこのもぐらもちになったのだ」
「卑怯なのは丹波とお蓮だ。剣の厄も、お蓮の女難も、源三郎見事にくぐり抜けたが……そのお蓮からとりあげたこけ猿の壺……」
「イヤ、待て。こけ猿は、おれの手にある。昨日この司馬寮に、同じ茶壺があるわけはねえのだ」
「何を言う! 現に余がこの眼で見、この手にとり、その壺を枕頭《まくらもと》にひきすえて、やっとのことでお蓮を遠ざけ、離室《はなれ》で一人寝についたのだが、すると――」
「ホ、すると?」
「すると、明け方近く、あの火事だ。四方八方から一時に火の手が起こったところを見ると……」
 語をつごうとする源三郎を、左膳は手をあげて、静かに制し、
「マ、長話はあととして……この穴を出るくふうはねえかな」
「ハハハハ、言われるまでもなく、貴公が仲間入りする前に、今までおれはさんざんやってみたのだ。が、四方は土、天井は手のとどかぬほど高い。落ちてきた穴はほとんどまっすぐだし、第一、なんの足場もないから、その穴へ飛びつくこともできぬのだ」
「伊賀の暴れん坊と丹下左膳、この穴の底に同居住まいとは、気のきかねえ話だなア。だが、そのうちに出る算段をたてるとして、そこで朝方の火事だが――」
「ウム、四方から一時に火の起こったところをみると、丹波一味の放火にきまっておる」
 言いながらも、源三郎のくやしさ、そのいきどおりは、烈々として焔のごとく感じられるのだった。
 水の音は、やまない。土をうつ水滴が、二人の会話に奇妙な合いの手を入れる。

       三

 地上ではどんなにさわいでいるか知れない……。
 耳を澄ましても、この深さではなんの物音も聞こえないのだ。
 チョビ安はどうしたろう。
 自分がこの穴へおちるところを彼は見ているのだから、きっとなんらかの方法を講じて、助けにくるに相違ない――と、左膳はそう思う一方、しかし、子供ではどうしようもあるまいし、それに、伊賀の連中につかまりでもしては、チョビ安、手も足も出まい。
 闇になれてくると、その穴蔵のさまが、ぼんやりと眼にうつる。
 上から細い穴を斜めに掘《ほ》ってきて、ここだけ部屋のように掘りひろげたものとみえる。四方は粘土まじりのしめった土。地中に特有のヒヤリとした空気がおどんで……床をうつ水の音が、耳いっぱいに断続して聞こえる。
 左膳は思いだしたように、源三郎へ、
「こけ猿の茶壺が二つあるはずはねえ。おれが手に入れて、駒形のある女のところに隠してあるのだから、お前がここで、お蓮からとりあげたというのは、偽《にせ》の壺にきまってらアな」
 源三郎は沈思の底から、太《ふと》いまゆをあげて、
「余はあけて見たわけではない。貴公もその壺を、まだひらいたのではないのだろう」
「ウム、今もいうとおり、あけかけたところで、この火事だ。とうとう開かずにここへ飛んできたのだが――」
「それでは、いずれが本物、いずれがにせ物と判断はできぬ」
「焼け跡に、こけ猿の壺らしいものをいだいた黒焦げの死骸が一つ、見つけだされて、それが源三郎に相違ないとのことだったが、貴様はこうしてりっぱに生きておるところをみると、その死骸はいったい何者であろうナ」
「丹波の計じゃ。宵のうちに余をとりまいて、亡き者にしようとした折り、あやまって仲間で斬りころした不知火組の若侍にきまっておる」
「ウム、その死骸を黒焦げにして伊賀の源三郎と見せかけようとしたのだな」
「こけ猿の壺を、死人とともに焼くわけはないから、それは名もない駄壺にきまっておるが――」
 いらだち気味に、左膳はあたりを見まわして、
「埋もれた宝を掘りに行くはずのおれが、自分がこうして埋められては、せわアねえ」
 自嘲的につぶやいて、たちあがりながら、左膳の胸中は、熱湯のにえくり返るように、苦しかった。
 こうして源三郎が生きている以上、萩乃にたいする自分の恋は、そだててはならぬ。わが心に生えた芽のままで、摘みとってしまわなければならないのだ。
 現に、彼のふところには、思いのたけを杜若《かきつばた》、あの恋文がはいっているのだけれど、もうこれを、萩乃にとどけることはできない……。
「こうしていてもはじまらぬ――」
 そう言って源三郎も、身を起こした時。
 天井からしたたる水粒は、早くなって、点々、点々と土をうつ。
 うすくらがりの中を手探りで、その小部屋の隅へ行ってみると、上に小さな穴があいているらしく、そこから落ちる水が、じっとりと足下をぬらしている。
「この真上は?」
 源三郎の問いに、左膳は静か
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