《きっさき》をそろえて持久戦……。
 人あってもしこの場を天上から眺めたならば――。
 まるでシインと澄みきってまわっている独楽《こま》のように見えたことだろう。
 中央の心棒に白衣の一点、それをとりまいて、何本もの黒い線。
 めんどうと見た左膳、
「さわるまいぞえ手を出しゃ痛い……伊賀の源三さえいてくれたら、手前ッチも、もっと気が強かろうがなあ。にらみあいでは埓《らち》があかねえ。そっちからこなけりゃあ、こっちから行くぞっ!」
 ニヤリと笑いながら、右へ片足。
 その右手の伊賀の連中、タタタと二、三歩あとずさりする。
「静かなること林のごとし……なるほど柳生一刀流の妙致だ。いつまでたってもジッとしているところは、フン見あげたものだ」
 と左膳、またふくみ笑いとともに、左へ一歩。
 右手の伊賀侍が、そろりそろりと後ろへ退く。
 剣神ともいうべき丹下左膳の腕前を見せられて、もうこの連中、すっかり怖気《おじけ》づいているのだ。
「めんどうだっ!」
 叫んだ左膳、濡れ燕を大上段にひっかぶり、まるで棒をたおすように、正面の敵中へ斬りこんでいった。
 縦横にひらめく濡れ燕。鉄《あらがね》と鉄《あらがね》のふれあうひびき。きしむ音、おめき声、立ち舞う焼《や》け跡《あと》の灰。
 その灰けむりのおさまったあとには、ふたたび水のように、つめたく静まりかえった丹下左膳の蒼い顔と、青眼にとった妖刀《ようとう》濡れ燕と……。
 そして。
 またもやそこここに三人の伊賀侍が、一人は膝をわりつけられて、立ちもならず、
「あっ痛《つ》ゥ!」
 と、這いながら焼《や》け灰《ばい》をつかむ。その、苦痛にゆがむ顔のものすごさ!
 もう一人は、肩先をやられて、片手で傷口をおさえながら、のたうちまわっている。三人目は、どこをやられたのか、あおむけにたおれたまま、血の池の中でしずかに眼をつぶろうとしている。
「三人!」
 チョビ安の大声がした。この乱闘の場をすこしはなれた焼け残りの土蔵の横に、チョビ安、焼けた棒で、土蔵の白壁へしるしをつけながら、
「父上ッ! 〆《し》めて九人……!」

       二

 早朝から、空の大半は真っさおに晴れて、焼け跡のすぐそばを流れる三方子川《さんぼうしがわ》の川づらを、しずかになでてくるさわやかな風。
 だが。
 人の膚《はだ》をつきさすような、ジリジリした日光には、もうどこやら初夏の色がまじって、川水一面、金の帯のように照りはえている。
 寮の前の往来の片側に、長くつづいている客人大権現《まろうどだいごんげん》の土塀から枝をのばした樹々のしげみが、かげ涼しげにながめらるるのだった。
 平和なのは、この自然の風景のみ。
 真っ黒な焼け跡には、いまし全伊賀勢を相手に、丹下左膳の狂刃が、巴《ともえ》の舞いを演じているのである。
 いま言った土塀の上に。
 近処の者や、通りすがりの人の顔がズラリと並んで、
「オウ、由《よし》や、見ねえな、講釈のとおりじゃアねえか。足をジリジリ、ジリジリときざませて、両方から近よっていくところなんざア、すごい見物だぜ」
「あの片手の侍は、よっぽど腕がたつと見えるぜ。取り巻《め》えてる連中の、ハッハッハという息づかいが、ここまで聞こえてくるようだ」
「ソラ、一人うしろへまわったぞ」
「刀を下段にかまえて……ソレ、しのびよっていく、しのびよっていく」
「ああ、おれはもう見ちゃアいられねえ」
 と気の弱いひとりが、たまらなくなって眼をふせる。
「ほんとだ。あいつもバッサリやられるにきまってらあ」
 この言葉が終わるか終わらぬかに、塀の上に並ぶ見物人一同、ワアッと歓声をあげた。
 見るがいい!
 前へ斬りこむと見せて、そのままあとへはらった左腕の左刀、うしろざまに見事にきまって、背をねらってしたいよっていた伊賀侍、ガッと膝をわりつけられてのめってしまった。そがれた白い骨が、チラリと陽に光って露出する。一、二、三、四、五と、五つ数えるほどのまをおいて、はじめてドッと血がふきでるのだった。
 塀の上に並ぶ顔は、いっせいに眼をふさいで、
「すげえもんだなア!」
「オウ、見ろ、見ろ! よほど苦しいとみえて、土をつかんでころがりまわっているぜ」
「侍は、どうでエ、ニヤニヤ笑って、血刀をさげたまま、右に左に歩きまわっている。あいつはおっそろしく度胸がすわっているのだなア」
「イヨウ、剣術の神様!」
「人斬り大明神!」
「待ってましたアッ!」
「大統領ッ!」
 人間の顔が、首から上だけ塀の上にズラリと並んで、割れるような喝采《かっさい》だ。通りかかった人が、この斬りあいにみんな塀の中へ逃げこんで、首だけのぞかせてながめているのだ。
 甘酒屋のお爺《じい》さんが、赤塗りの荷箱をおっぽりだして、塀のかげへ走りこんだかと思うと、す
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