のであろう」
「なんにしても、門之丞どのはお気の毒なことをいたしたテ」
「われらさえ眼がさめたらなア……さだめし激しい斬りあい、物音もいたしたであろうに、白河夜船とは、いやはや、不覚でござったよ」
 同僚の忠死をいたむ伊賀ざむらい。門之丞の死骸は、二つになった胴をつなぎあわせ、白木綿でまいて、ねんごろに棺におさめ、主君源三郎の帰りを待つことになった。
 これやそれやの騒ぎで、その日一日は、はやくも暮れてしまう。
 これは、源三郎の婿入りにつきしたがって、柳生の庄から江戸入りしている一団だ。
 十方斎先生なきあとの司馬道場にがんばって、居すわりの根くらべをしている連中。
 林念寺《りんねんじ》前の上《かみ》やしきなる尚兵館の、あの高大之進の一派と呼応して、江戸の巷にこけ[#「こけ」に傍点]猿を物色しているのだ。
 居直り強盗というのはあるが、これは、居なおり婿のとりまきである。
 あくまでも萩乃の婿のつもり、すなわちこの道場の主人の格式で、乗りこんできている源三郎は、この荒武者どもをひきつれて、道場の一郭に陣どり、かって放題の生活をしていたのだ。
 庭に面した座敷を、幾間となくぶちぬいて、乱暴狼藉のかぎり。
 剣術大名といわれたくらい、富豪の司馬様だから、りっぱな調度お道具ばかりそろっている。それをかたっぱしからひきだしてきて、昔から名高い薄茶の茶碗で、飯をかっこむやら、見事な軸へよせ書きをして笑い興じるやら……それというのも、こうでもしたら司馬家のほうから、今にも文句がでるかという肚《はら》だから、これでもか、これでもかといわんばかり、喧嘩を売ってきたのだ。
 もてあました峰丹波とお蓮様、このうえは源三郎をおびきだして、ひと思いに亡き者にするよりほかはないと、門之丞をだきこんで、ああして葛飾《かつしか》の寮へひきよせたのだった。
 その、伊賀の暴れん坊源三郎、とうとう彼らの策に乗り、今は真っくろこげの死体となった――?
 ともしらぬ一同は、その日も帰らぬ源三郎を案じながらも、門之丞のことなどあれこれと話しあって、その晩は早く寝《しん》についた。
 すると、ちょうど明け方近くだった。
 彼らの寝ている部屋のそと、しめきった雨戸ごしの庭に、ヒヒン! とふた声、三声、さも悲しげな馬のいななきが聞こえた。

       二

 水の流れもとまるという真夜中すぎに、馬のなき声である。
 五十嵐鉄《いがらしてつ》十|郎《ろう》という人が、いちばん敷居際の、縁に近いところに寝ていた。
 そのいななきを耳にして、最初に眼をさましたのは、この五十嵐鉄十郎だった。
「はてな……」
 と、彼は身をおこした。
「若殿の御帰館かしら。それにしても、この深夜に――」
 轟《ごう》ッと立ち木をゆすぶり、棟をならして、まっ暗な風が戸外《そと》をわたる。さながら、何かしら大きな手で、天地をかきみだすかのよう……。
 ひとしきり、その小夜《さよ》あらしが走って、ピタとやんだのちは、まるで海底のような静かさだ。
 なんのもの音も聞こえない。
 枕から頭をあげていた五十嵐鉄十郎は、
「空耳?――だったに相違ない。今ごろこの奥庭で、馬のなき声のするはずはないのだから」
 とそう、われとわが胸に言いきかせて、ふたたびまくらに返ろうとした瞬間、こんどこそは紛れもない馬のいななきが、一声ハッキリと……。
「殿ッ! お帰りでござりまするか」
 思わず大声が、鉄十郎の口をにげた。
 と、となりに寝ていた一人が、眼をさまして、
「なんだ、どうしたのだ」
「しっ!」
「ホ、この庭先に、何やら生き物の気配がするではないか。うむ! 馬だな」
 それに答えるかのように、戸外《そと》では、土をける蹄《ひづめ》の音が、断続して聞こえる。
 今は躊躇《ちゅうちょ》すべきではない。五十嵐鉄十郎ともう一人の侍は、力をあわせていそぎ雨戸をくってみると、――もう、空のどこかに暁の色が流れそめて、物の影が、自くおぼろに眼にうつる。
 裏木戸を押しやぶって、はいってきたものに相違ない。雨戸の外、庇《ひさし》の下に、ヌウッと立っていたのは一頭の馬だ。
 それが、戸のあくまももどかしそうに、長い鼻面を縁へさしいれた。おどろいた鉄十郎と相手は、顔をみあわせて、しばし無言だった。
 馬は、口をきけないのがじれったいと言わんばかりに、頸《くび》をふり、たてがみをゆすぶって、何やら告げたげなようすである。
 じっと見ていた五十嵐鉄十郎がうめいた。
「おう、これは、殿の御乗馬では……!」
「うむ! たしかにそうだ。源三郎様は、此馬《これ》にめされて、遠乗りに出られたはず」
「今この馬が、こうして空鞍《からくら》でもどったところを見ると――」
「若殿のお身に、何か異変が……」
「これ! 不吉なことをいうでない」
 とど
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