った。
「いや、たいしたものですなア」

       六

 石川左近将監殿《いしかわさこんしょうげんどの》家臣、竹田なにがし、煙にまかれたように、すっかり感心して帰ってゆくと、主水正はその壺をしまいだしたが、とり出す時の、あの、いかにも名品を扱うような、注意深い態度とうってかわって。
 このしまい方の乱暴さは、どうだ!
 こけ猿の壺をひっつかまえて、ぶつけるようにすがり[#「すがり」に傍点]をかぶせる。そいつを、まるで裏店《うらだな》の夫婦喧嘩に細君の髪をつかむように、グシャッとつかんで、ぽうんと箱へほうりこむ。
 グルグルっところがしながら風呂敷につつんで、――さて、主水正、またぽんぽんと手をならした。
 出てきたのは、竹田を送り出して玄関から帰ってきた小姓だ。
「壺を見せたら、おどろいて帰りましたね。当藩はたいそうな金持になったと思ってるんだから、笑わせますね。こんな貧的《ひんてき》な藩はないのに」
「コレコレ、よけいなことを申すな。しかし、この壺はよくできてるなア」
「じっさい、こけ[#「こけ」に傍点]猿にそっくりでございますね。よくもこう似せられたものですね」
「こいつを見せると、みな恐れ入って引きさがるからふしぎだ。こうやって、こけ猿は柳生の手に返ったと宣伝しておいて、その間に、一刻も早く真物《ほんもの》を見つけださねばならぬ」
「何ごとも宣伝の世の中ですからね」
「くだらぬことを申さずに、この壺をその床の間へかざっておけ。客の眼につくようにナ。まだ来ない大名もあるから、きょうは一時に殺到するかも知れん」
 小姓の手で、にせ[#「にせ」に傍点]猿の壺は、うやうやしく床の間の中央に安置された。とりどりの噂ありたるこけ猿は、かくのごとく、まさに、たしかに、当柳生家にもどり申し候《そうろう》。したがって当藩は、日光などお茶の子サイサイの大富豪に御座候《ござそうろう》。今後そのおつもりにて御交際くだされたく候《そうろう》……なんかと、さながら、そう大書してはりだしたように、その床の間のにせ[#「にせ」に傍点]猿が見えるのでした。
「今この竹田の持ってきた刀の包みを、向うへもっていけ」
 小姓が、その長いやつをかかえて、勘定方と記録係のひかえている、あの庭の奥の離室《はなれ》へはこんでゆく。
 ところへ。
 別の取次ぎが顔を出して、
「御家老へ申しあげます。一石飛騨守様《いっこくひだのかみさま》のお使いがお見えになりましてござります」
「おお、壺をかざったところでちょうどよかった。こちらへ」
 一石飛騨守の使いというのは、まるまるとふとった男だった。はいってくるとすぐ、床の間の壺を見て、ひどくおどろいたようすだったが、持ってきた何やら大きな贈りものをさしだして、口上をのべはじめた。
「エエこのたび、柳生対馬守さまにおかせられては、二十年目にただ一度めぐりきたる光栄のお役、権現様御造営奉行におあたりになりましたる段、慶賀至極、恐悦のことに存じたてまつります。云々《うんぬん》」
「どうつかまつりまして」
「それ戦国の世においては、物の具とって君の馬前に討死なし、もって君恩に報いたてまつるみちもござりまするなれど、うんぬん――」
「この治国平天下の時代には」
 主水正が、ひきとった。
「せめては日光様のお役にあいたち、葵《あおい》累代《るいだい》の御恩の万分の一にもむくいたいと、御主君一石飛騨守どのはなんとかして日光御造営奉行に任じられますようにと、日夜神仏に御祈願……」
「ハイ、そのとおりで」
「水垢離《みずごり》までおとりなされて――」
「おや、よくごぞんじで」
「それが柳生へ落ちてまことに残念だから、せめてはお畳奉行かお作事目付にでも……」
 主水正、大きな欠伸《あくび》をした。

       七

 ……といったようなわけで、一石飛騨守の使者が、
「ぜひとも、ぜひとも、日光お役の一つを、わたくしどもへお命じくださいますよう、平《ひら》に御容赦《ごようしゃ》、イエ、せつにお願いつかまつりまする」
 と、なんだかシドロモドロのことを言って、でかでかとした大きな贈り物を置いて、帰りじたくをしながら、
「ちょっとうかがいますが、あれなる床の間にかざってございますのは、あれは、こけ猿の茶壺で……?」
「はア。さようです。だいぶ世話をやかされましたが、ちかごろやっと手にもどりました次第」
「それはそれは、結構でございましたなあ。ヘエエ! あれが有名なるこけ猿。なんともお見事なる品で――もうこれで、お家万代でござりまするな。いや、おめでとうございます」
 そこへ、また取次ぎの者があらわれて、
「エエ御家老様、堀口但馬守様《ほりぐちたじまのかみさま》からお使いの方がおみえになりまして……」
「ウム、こちらへ」
「では、拙者はこれにてご
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