の柳生の上屋敷をおとずれ、異口同音に、日光御修営に参加させてくれとたのんでは、競《きそ》って高価な進物を置いてゆく。その品物の中には、必ず金一封がひそんでいるので。
 その真意は。
 これを献上するから、日光造営奉行の下のお畳奉行やお作事目付は、どうぞごしょうだからゆるしてくれ……という肚《はら》。
 早く言えば、日光のがれの賄賂《わいろ》だ。早くいっても遅くいっても、賄賂は賄賂ですが。
 主水正のほうでも、それはよッく承知していて、一番進物の額《たか》のすくない藩へ、この、人のいやがる日光下役をおとしてやろうと、今、全部の藩公からつけとどけのあつまるのを待って、きょうあたりボツボツ締め切ろうかと思っていたところだ。それが、最後の五分間になっても、こうしてまだやってくる。
 お向うの林念寺の坊さんなどは、訳を知らないから、柳生様では大名相手のお開帳《かいちょう》でもはじめたのかと、おどろいている。
 竹田は、そのまま帰るかと思うと、
「いや、ここまでは使いの表《おもて》」
 と、ちょっと座を崩して、低声《こごえ》に、
「ときに――例のこけ[#「こけ」に傍点]猿は、みつかりましたかな?」
 おどろいたことに、こけ猿の一件はモウだいぶ有名になってるとみえる。

       五

「例のこけ猿の茶壺は、もはや見つかりましたか」
 と竹田がきいた。こけ猿事件がこんなに有名になっているとは、おどろいたものだが、それよりも、もっとおどろいたことには……。
 きかれた田丸主水正。
 さぞかし大いにあわてるだろうと思いのほか。
 この時|主水正《もんどのしょう》、すこしもさわがず、すまして手をたたいたものです。
「品川の泊りにて、若君源三郎様が紛失なされたこけ猿の茶壺、ちかごろやっと当家の手に返り申した。ただいまお眼にかけるでござろう」
「お召しでございましたか」
 十六、七の小姓が、はるかつぎの間へきて、手をついた。
「ウム。こけ猿をこれへ」
「はっ」
 お小姓は顔をうつ向けたまま、かしこまって出ていった。
 柳生では、こけ猿の茶壺という名器が行方不明のために、その壺の中に封じこめてある先祖の埋宝個処がわからず、日光お着手の日を目前に控えて、ほとほと困却の末、藩一統、上下をあげて今はもう狂犬みたいに逆上《ぎゃくじょう》している――という、目下、大名仲間のもっぱらの噂である。
 竹田もこの評判を耳にしていたので、いま帰りぎわに、ちょっと、同情三分にからかい七分の気もちできいてみたのだが……世上の取り沙汰《ざた》とちがって、今その壺は、チャンとこの柳生の手におさまっている――という返事。
 ハテナ、と、竹田が首をひねると、主水正はにこにこして、
「だいぶ世間をおさわがせして、申し訳ござらぬが、実は、最近ある筋から、こっそり壺を返してまいりましてナ」
「ははア。それは何より結構でございました」
 と竹田は、四角ばってよろこびをのべたが、内心とてもがっかりしている。
 近いうちにきっと一騒動持ちあがるに相違ないと、ひどいやつで、おもしろい芝居でも待つように、人の難儀をこころ待ちしていたのだが、壺がこっちへ返ってしまえば、柳生は一躍たいへんに裕福な藩。日光なんかジャンジャン引き受けたって小ゆるぎもしない。さぞ苦しがって今に暴れだす[#「す」に傍点]だろうと思っていたのが、これじゃアさっぱりおもしろくないから、竹田の失望は小さくございません。
 さっきのお小姓が、ふるびた布《きれ》につつんだ箱をささげて、はいってきた。
 主水正はイヤに緊張した顔で、うやうやしく受けとり、
「これです。この壺に関して、とかく迷惑なうわさの横行いたす折りから、御辺《ごへん》がおたずねくだすったのは、何よりありがたい。一つ、御辺《ごへん》を証人として、無責任なごしっぷ[#「ごしっぷ」に傍点]を打ち消すために、壺をごらんにいれよう」
「ぜひ」
 と竹田は乗りだす。
 そんなに乗りださなくっても、これはどこから見ても、誰が見ても、まったくこけ[#「こけ」に傍点]猿の茶壺に相違ない。じつに不思議なこともあればあるもので、主水正が、上の布を取りのぞくと、時代がついてくろずんだ桐の箱が出てきた。その箱のふたをとれば、あかい絹紐のすがり[#「すがり」に傍点]がかかって、そのすがりの網の目を通して見える壺の肌は、さすがに朝鮮古渡《ちょうせんこわた》りの名器、焼きのぐあいといい、上薬の流れあんばいといい、たとえば、芹《せり》の根を洗う春の小川のせせらぎを聞くようだと申しましょうか。それとも、雲と境のつかない霞の奥から、ひばりの声が降ってきて――。
 いかさまこけ[#「こけ」に傍点]猿の銘のとおりに、壺の肩のあたりについている把手《とって》の一つが、欠けている。
「ウーム!」
 竹田がうな
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