は、主君対馬守のお代理という格式で、突き袖をせんばかり、そっくりかえってその部屋へはいっていくと、竹田は、前に出ていた天目台《てんもくだい》をちょっと横へそらして、両肘を角立てて、畳をなめた。
 平伏したのだ。
「これは、御家老田丸様……いつも御健勝にて、何よりと存じまする」
「アいや、そこは下座《しもざ》。そこでは御挨拶もなり申さぬ」
 と主水正は、袴《はかま》のまちから手を出して、床の間のほうへしゃくるような手つきをした。
「どうぞ、どうぞあちらへ――」
「は。今日《こんにち》は、主人|将監《しょうげん》のかわりでござりますれば、それでは、失礼をかえりみませず、お高いところを頂戴《ちょうだい》いたしまする」
 および腰のすり足、たたみの縁《へり》をよけて、ツツツウと上座になおった竹田なにがしが、
「実は、主人将監が自身で参上つかまつるはずで、そのしたくのさいちゅう――」
 いいかけることばを、主水正は中途からうばって、
「いや、わかっております。そのおしたくのさいちゅう、この二、三日ことのほかきびしき余寒のせいか、にわかに持病の腹痛、あるいは頭痛、あるいは疝気《せんき》の気味にて、外出あいかなわず、まことに失礼ながら貴殿がかわって御使者におたちなされたと言われるのでござろう」と、くすぐったそうなふくみ笑い。
 竹田はポカンとして、
「そのとおり。よくごぞんじで。手前の主人のは、その頭痛の組でございます」
「伊達《だて》様と、小松甲斐守殿と、そのほか頭痛組はだいぶござった。イヤ、どなたの御口上も同じこと。毎日毎日おなじ応接を、いたして、主水正、ことごとく飽き申したよ」
 まったく、それに相違ない。この十日ばかりというもの、一日に何人となく諸国諸大名の使いが、この林念寺前の柳生の上屋敷へやってきて、さて、判で押したような同じ文句をのべて、おなじような贈り物をさしだす。
 もうすっかりすんだころと思ってきょう締め切ろうと、ああして総決算にかかったところへ、また一人、この石川家の竹田がやって来たというわけなので。
「ははア、さようでございましょうな」
 と竹田は、感心したような、同情したような顔をしたが、このままでは使いのおもてがたたないので、ピタリと畳に両手を突いてやりはじめた。
「このたびは、二十年目の日光東照宮御修営という、まことに千載一遇のはえある好機にあたり……」
「ちょ、ちょっとお待ちを。お言葉中ながら、二十年目の千載一遇というのは理にあい申さぬ。強いて言おうなら、二十年一遇でござろう。これも私は、七十六回なおしました。貴殿で七十七人目だ」
「イヤどうも、これは恐れ入ります。なるほど御家老の仰せのとおりで――その二十年一遇の好機にあたり、御神君の神意をもちまして、御当家がその御造営奉行という光栄ある番におあたりになりましたる段……」
「はい。あれは、にくんでもあまりある金魚めでござったよ。いっそ、石川殿の金魚が死ねばよかったに」
「いえ、とんでもない! 桑原桑原《くわばらくわばら》……エエどこまで申しあげましたかしら。そうそう、御当家がその御造営奉行の光栄ある番におあたりになりましたる段、実もって慶賀至極、恐悦のことに存じまする。これが戦国の世ならば――」
 途中で暗記でもしてきたらしく竹田|某《ぼう》、ペラペラとやっている。

       三

「もしこれが戦国の世ならば」
 と、竹田は、一気につづけて、
「上様《うえさま》の御馬前に花と散って、日ごろの君恩に報い、武士《もののふ》の本懐とげる機会もござりましょうに、かように和平あいつづきましては、その折りとてもなく、何をもってか葵《あおい》累代《るいだい》の御恩寵《ごおんちょう》にこたえたてまつらんと……いえ、主人左近将監は、いつも口ぐせのようにそう申しております。ところで、このたびの日光大修営、乱世に武をもって報ずるも、この文治の御代に黄金《こがね》をもってお役にたつも、御恩返しのこころは同じこと。ましてや、流れも清き徳川の源、権現様《ごんげんさま》の御廟《ごびょう》をおつくろい申しあげるのですから、たとい、一藩はそのまま食うや食わずに枯れはてても、君の馬前に討死すると同じ武士《もののふ》の本望――」
「いや、見上げたお志じゃ。よくわかり申した」
 来る使いも、来る使いも、この同じ文句を並べるので、主水正、聞きあきている。
「いえ、もうホンのすこし、使いの口上だけは、お聞きねがわないと、拙者の役表がたちませぬ――まことに、この日光おなおしこそは、願ってもない御恩報じの好機である。なんとかして自分方へ御用命にならぬものかと、それはいずれさまも同じ思いでございましたろうが、ことに主人将監などは、そのため、日夜神仏に祈願をこらしておりましたところ……」
主水正は、そっ
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