》にはボーッと灯りがにじんでいます。呼吸《いき》をこらして、障子のそとに立っていると、
「源さま、源三郎様……」
耐え入るような、萩乃の声だ。わが主君《との》ながら、男|冥利《みょうり》につきた源三郎! と思うと、嫉妬《しっと》にわれを忘れた門之丞、ガラリ障子を引きあけ、
「いや、おどろかないでください、萩乃さま。私です、門之丞です――」
ズイとはいりこみました。
四
「あらっ!」
萩乃は、突かれたようにのけ[#「のけ」に傍点]ぞって、闇黒《やみ》をせおってはいってきた男を、見あげた。
門之丞などという名は、彼女は知らない。が、見れば、源三郎にくっついて伊賀から来ている青年剣士の一人。しかも、源三郎の右の腕のように、先にたって道場で乱暴を働いている男だから、これは萩乃、おどろくななんて言われたって、おどろかずにはいられない。
驚愕のあまり、うしろざまに片手をついた拍子に、派手な寝間着の膝がわれて匂《にお》いこぼれる赤いもの。
萩乃はいそいで、その裾前をつくろいつつ、
「お酔いになって、とまどいなすったのではございませんか。ここは、あなた様方のお部屋ではございません。女の夜の部屋……どうぞ、おひきとりくださいまし」
「いや、酔っているのでも、ねぼけているのでもありません」
ズカリとそれへすわった門之丞、思いつめた面上には、ものすごい蒼さがはしり、もう、眼をすえている。
「萩乃さま、どうぞ、お静かに――思いきって、こうして夜中、お寝間と知って、推参いたしました門之丞、かなわぬまでも、この胸のうちだけはお聞きとりねがいたいと存じまして……」
「まあ、あなた様は、なんという無礼なことを! 女ひとりとあなどって――」
萩乃は、すっくと起ちあがった。とたんに、怒りにもえる彼女の眼にうつったのは、机のうえに二つ仲よく並んでいる、小さな博多人形のお内裏様《だいりさま》。
源三郎さまと、自分と……この男は、さっきから障子のそとで、じぶんがこの人形をくっつけておくところなど、そっと垣間《かいま》見ていたに相違ない。そう思うと萩乃は、このとっさの場合に、火のように赤くなりながら、あわてて、机の上の二つの人形をはなしました。
「私は、命を投げだして此室《ここ》へまいったのです。こんなにあなたさまを思っておりますものを、すこしでもあわれと思召《おぼしめ》すお心があったら、どうか、萩乃様、この念《おも》いを――」
もう夢中の門之丞だ。内々考えてきた口説《くどき》の文句など、実際となると、なんの役にもたちません。相手がアア言ったらこう、コウ出たらアアなどと、順序や策が頭に浮かぶあいだは、人間万事、まだほんとうに真剣ではないのかもしれない。門之丞は、これが主君のいいなずけだということすら、すっかりどこかへケシとんで、ただ、われとわが身の情炎に、眼もくらめき、たましいもしびれ、女対男、男対女……としかうつらない。
妙《たえ》なる香《こう》のたゆとう深夜の寝室。
ねまき姿もしどけなく、恐怖と昏迷に白い顔をひきつらせて、キッと立っている妻恋小町《つまごいこまち》――知《し》らぬ火《い》小町《こまち》の半身に、かたわらの灯影が明るくゆらめき、半身は濃《こ》むらさきの闇に沈んでいる。
あまりの美しさ! あまりにもあでやかな眺めに、門之丞はしばし、その血管内に荒れ狂う意馬心猿《いばしんえん》もうちわすれ、呆々然《ぼうぼうぜん》として見|惚《と》れたのでした。
切れ長な眼に、かよわい女の身の、ありったけの険をふくませて、萩乃は真《ま》っこうから、門之丞をにらみつけながら、
「声をたてますよ! 声をたてますよ」
門之丞は無言。ニヤリッと笑って、片膝立てた。まさに獲物をおそわんとする豹《ひょう》のごとく……。
五
いつもはつぎの間に、侍女のひとり二人が寝泊りするのだけれど、ひとり夜更けに起きて物思うようになってからは、それも何かとうるさいので、このごろは遠ざけて、近くに呼びたてる人もない。
でも、萩乃は、それを見せては、弱身になってつけこまれると思ったから、さも隣室に人ありげに、
「浦路《うらじ》や、浦路! 桔梗《ききょう》! これ、桔梗はいないの? ちょっと起きておくれ」
と、あわただしく、だが低声《こごえ》に呼びたてた。
しかし、門之丞もさるものです。
前もってそこらの部屋部屋をすっかりのぞいて、近くに誰もいないことをたしかめてある。
しずかに立ちあがった。血走った眼で萩乃をみつめて、ソロリ、ソロリと近づいてくる。
「お嬢さま、萩乃様……」
と、うわずった声です。
「この望みさえかなえば、わたしは、八つ裂きにされてもいといません。もとより、主君の奥方様ときまったお方に、かような、だいそれた無態
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