ている萩乃の婿、いくらまだ名ばかりの婿でも、その源三郎にこうして言いよるとは、これはお蓮さまも、決して術の策のというのではございません。
 真実《しんじつ》、事実《じじつ》、実際《じっさい》、まったく、断然《だんぜん》、俄然《がぜん》……ナニ、そんなに力に入れなくてもよろしい、このお蓮様、ほんとに伊賀の暴れン坊にまいっているんだ。
 男がよくて、腕がたって、気性《きしょう》が単純で、むかっ腹がつよくて、かなり不良で、やせぎすで、背が高くて、しじゅう蒼み走った顔をしていて、すこし吃《ども》りで、女なんど洟《はな》もひっかけないで、すぐ人をブッタ斬る青年……こういう男には、女は片っ端から恋したものです。
 むかしのことだ。今はどうか知らない。
 が、今も昔も変わらぬ真理は、恋は思案のほか――お蓮さまは、モウモウ源三郎に夢中《むちゅう》なんです。
 立とうとする源三郎へ、背をもたせかけて、うしろざまに突いた手で、男の裾をおさえました。
「ほんに気の強いお人とは、源さま、おまはんのことざます」
 そんな下品なことは言いませんが、ぐっと恨みをこめて見上げるまなざしには、まさに千|鈞《きん》の重みが加わって、大象《だいぞう》をさえつなぐといわれる女髪《にょはつ》一筋、伊賀の若様、起《た》つに起てない。
 剣難は去ったが、この女難はにがてです。
 もっとも、女にかけては、剣術以上に名うての源様のことだから、たいがいの女におどろくんじゃあありませんが、このお蓮さまだけは、どう考えたって、そんな義理あいのものじゃアない。
 第二の危機……。
「母上としたことが、チチ、近ごろもってむたいな仰せ。げ、源三郎、迷惑しごくに存ずる」
 角ばった口上――しかも、この場合母上という呼びかけは、熱湯に水を注ぐよう、まことにお座のさめた言葉ですが、お蓮様は動じるけしきもなく、
「わたしの言うことをきけば、いいことばかりですよ、源さま」
「ハテ、いいことばかりとは?」
「あなたは何か、命にかけて、探しているものがおありでしょう」
「う、うん」
 源三郎は、顔色を騒がして、
「ソ、それは、母上もかの丹波めも、同じ命にかけてさがしておるものでござろう」
「さ、そのこけ猿の茶壺……」
「ウン、そのこけ猿の茶壺は――?」
 二人はいつのまにか、息を凝《こ》らしてみつめあっている。
「ほほほほほ、そのこけ猿ですが……当方ではもう探しておりません」
「ナナ、何? では、探索をうちきられたか」
「こっちの手にはいりましたから、もうさがす要はございませんもの」
「何イッ! こ、こけ猿を入手したっ!」
「はい。今この寮にございます。いいえ、この部屋にあります」
 と、つと立ちあがったお蓮様の手が、床わきの違《ちが》い棚《だな》の地袋を、さっと開くと!
 夢にもわすれないこけ猿[#「こけ猿」に傍点]が、チャンとおさまって――源三郎、眼をこすりました。

       四

 思いきや、われ人ともに狂気のようにねらっているこけ猿の茶壺が、いつのまにかこの一味の手にはいって、今この部屋の、この戸棚のなかにしまってあろうとは!
 源三郎は、眼をしばたたきました。と見こう見するまでもなく、古びた桐の木箱を鬱金《うこん》の風呂敷につつんであるのは、まぎれもないこけ猿だ。
「ド、ド、どうしてこの壺がここに――?」
 おめいた源三郎、走りよろうとした。
 と、いちはやくお蓮さまの白い手が灯にひらめいて、この地ぶくろの戸をしめていた。
 そして、はばむがごとく、うしろざまに手をひろげて、ピタリその前にすわったお蓮様。
「ほほほほほ、今になってそんなにびっくりなさるなんて、源さまもよっぽど暢気《のんき》ですよ。なんとかいう一ぽん腕の浪人が、橋の下の乞食小屋に、後生大事に守っていたのを、丹波が人をやって、こっそり摸《す》りかえさせたんです」
 寸分違わない風呂敷と木箱をつくり、その箱の中には、破《わ》れ鍋《なべ》一個と「ありがたく頂戴《ちょうだい》」と書いたあの一枚の紙片……左膳の小屋からほんものを盗みだし、かわりにこれを置いたのは、さては、峰丹波の仕業であったのか。
 それとも知らず左膳は、あの高大之進の一党が斬《き》り込んだ時、命を賭して破れ鍋をかかえて、走ったとは、左膳一代の不覚――お藤の家でチョビ安をおさえられて、それと交換に、おとなしく大之進方へ渡した箱の中から、衆人|環視《かんし》のなかに出てきたのは、この鍋と、ありがたく頂戴の紙きれであった。
 源三郎は、そんないきさつは知らないけれど、ほんもののこけ猿は、とうの昔にここにあったのかと、顔いろを変えてお蓮様につめより、
「さ、渡されい。その壺は、品川の泊りにおいて拙者が紛失いたしたるもの。正当の所有者は、いうまでもなく余である。おわたしあ
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