、白足袋《しろたび》[#「白足袋《しろたび》」は底本では「白《しろ》足|袋《たび》」]の爪立ち、さっと部屋を出ていった。
「源様、どうぞこちらへ。ちょっとお話し申しあげたいことが……」
お蓮さまは、あわてて後を追う。前髪立ちの少年が、手燭をかかげて急いでつづけば、あおりをくらった灯はゆらゆらとゆらいで、壁の人影が大きくもつれる。
バタバタと三人の跫音が、廊下を遠ざかって行きます。
あとに残された一同、あんまりいい気もちはいたしません。
「なんだ、馬鹿にしておるではござらぬか。殺すはずのやつを助けて、アノ源さま、どうぞこちらへ――か。畜生ッ!」
「おのおの方はお気がつかれたかどうかしらぬが、お蓮の方は眼をトロンとさせて、彼奴《きゃつ》を眺めておられたぞ。チエッ、わしゃつらいテ」
なんかとガヤガヤやっている時、お蓮さまは、悠然たる源三郎の手を持ち添えぬばかりに、やがて案内してきたのは、細い渡廊《わたり》をへだてた奥庭の離庵《はなれ》です。
雲のどこかに月があるのか、この茶庭の敷き松葉を、一本一本照らしだしている。
「あの、もうよいから、灯りはそこへ置いて、お前はあっちへ行っていや」
とお蓮様、にらむようにして小姓を去らせた。
源三郎は突ったったまま、
「安積玄心斎、谷大八、門之丞の三人は、いかがいたしましたろう」
ぽつりと、きいた。
二
お蓮様は、その問いを無視して、白いきゃしゃな手をあげて、自分の前の畳をぽんとたたき、
「ま、おすわりになったらいかが? 源さま」
源三郎は、依然としてふところ手。
いま、雨と降る白刃の下をくぐった人とも思えぬ静かさで、
「供の三人は、どこにおりますか、それを伺いたい」
言いながら、しょうことなしに、そこに片膝ついた。
まったく、不思議。
玄心斎、大八、門之丞の三人は、どこへつれさられたのやら、この広くもなさそうな寮のうちは森《しん》として、たとえいくら間《ま》をへだてていても、今の斬合いが、三人の耳へはいらないはずはないのだけれど。
真夜中の空気は、凝《こ》って、そよ[#「そよ」に傍点]との風もございません。垣根のそとは、客人大権現《まろうどだいごんげん》の杉林。陰々《いんいん》たる幹をぬって、夜眼にもほのかに見えるのは、月を浮かべた遠い稲田の水あかりです。
その、田のなかの細道を、提灯《ちょうちん》が一つ揺れていくのは、どこへいそぐ夜駕籠か。やがてそれも、森かげへのまれた。
フと、くッくッと咽喉《のど》のつまる声がして、源三郎はギョッとして[#「ギョッとして」は底本では「ギヨッとして」]お蓮様を見かえりました。
顔をおおって、お蓮さまは泣いている。小むすめのように、両の袂《たもと》で顔をかくし、身も世もなく肩をきざませているお蓮様――。
と、その声がだんだん高くなって、お蓮さまはホホホホホと笑いだした。
泣いているんじゃアない。はじめっから笑っていたんだ。
「ほほほほほ、まあ! 源三郎さんのまじめな顔!」
チラと膝先をみだして、擦りよるお蓮様のからだから、においこぼれる年増女の香が、むっとばかり源三郎の鼻をくすぐります。
「ねえ、源さま。なるほど、お亡くなりになった先生は、萩乃の父ですけれど、それなら、いくら後添えでも、このわたしは彼娘《あれ》の母でございますよ」
いかにもそれに相違ないから、源三郎はだまっていると、お蓮さまはそれにいきおいを得て、
「それなら、いくら父だけが一人で、あなたを萩乃のお婿さまにきめて死んでいったところで、この母のわたしが不承知なら、このお話は成りたたないじゃアありませんか」
この辺から、お蓮様の論理は、そろそろあやしくなって、
「いつまでたったって、萩乃はあなたのお嫁じゃございませんし、道場もあなたのものではないのですよ、源様」
ほっそりした指が、小蛇のように、熱っぽく源三郎の手へからみついてくる。
「あなただって、何も、萩乃が好きのどうのというのではござんすまい。いつまで意地っぱりをおつづけ遊ばすおつもり? ほほほ、いいかげんにするものですよ、源様。そんなにあなたが、司馬の道場の主《あるじ》になりたいのだったら、あらためて、このわたしのところへお婿入りして……ネ、わかったでしょう?」
道ならぬ恋の情火に、源三郎は思わず、一、二尺あとずさりした。
「母上!」
と相手の言葉が、この場をそのまま、身をかばう武器です。
三
刀で殺さずに、色で殺そうというのでしょう。
剣にはどんなに強い男でも、媚びには弱いものです。
イヤ、男を相手にして強い男に限って、女には手もなくもろいのがつねだ。
千軍万馬のお蓮様、そこらの呼吸《こきゅう》をよっく心得ている。
だが、なんぼなんでも娘となっ
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