がら、身も世もなさそうに、泣き声をかみしめている。
「強いようなことを言ってみても女ですもの……あたくしは、源様あなたの御慈悲がなくては、生きて行けません」
「司馬先生の御遺志どおり、兄との約束にしたがって、穏便に事を運べば、源三郎、決して母上を粗略にはいたしませぬ考え――一に、そちらの出ようひとつでござる」
「はい、よくわかりました。はじめて、それに気がつきました。どうぞよろしくお取りはからいくださいますよう……」
「ソ、それは本心でござるな」
いきおいこんで乗り出す源三郎を、玄心斎と大八は、傍《かた》えから制して、
「シッ、殿ッ、これには何か魂胆が――」
「若ッ、こう急に降参するとは思えませぬ」
かわるがわるささやけば、お蓮様は、涙に輝く眼で一座を見わたし、
「そう思われても、しかたがござりませんけれど、今まで楯《たて》ついてきましたことは、ほんとに、世間知らずの女心から出た浅慮《せんりょ》、どうぞ、わたしの真心をおくみとりなされて――」
生一本な源三郎です。このお蓮様の涙は、ただちに源三郎の心臓にふれて、彼は苦しそうに、つと起って縁の雨戸の間から、雨に乱れた庭へ眼を放った。
さっきお蓮様が丹精していると言った、うす紅色の芙蓉《ふよう》の花は、無残に散り敷いている。それは、いまのお蓮様の姿のように、憐れにも同情すべきものとして、源三郎の眼に映ったのでした。
三
お蓮様は、その源三郎の立ち姿を、仮面のような顔で、いつまでも見守っていました。
玄心斎がニヤニヤして、
「お気が弱くなられましたな、御後室様。ははははは」
ニッコリうちうなずいたお蓮様、
「気が弱くもなろうじゃアありませんか。あなたのようなお強い方々《かたがた》が、女一人を取り巻いて、いじめるんですもの」
「どうですかナ」
谷大八も気がるな声が出て、お蓮様と笑いをあわせた。
源三郎は静かに座に帰り、
「では、ど、どうなさろうというので」
「それを明日にでも、ゆっくり御相談申しあげたいと存じまして」
チラリと一同の顔を見たお蓮様は、
「わたしは、またすこし悪寒《さむけ》がしてきましたから、これで失礼を」
衣の重さにも得《え》堪《た》えぬように、お蓮さまはスラリと立って、部屋を出て行きましたが……源三郎はそのあたりを払うばかりの美しさに打たれて、思わず、あと見送らずにはいられなかった。
「本心でござろうか」
両肘《りょうひじ》を膝に、前|屈《かが》みに首を突き出す玄心斎。
谷大八はせせら笑って、
「さあ、どういうものでしょうな。女の涙は、拙者にはとんと判断がつき申さぬ。だが、まんざら計《はか》りごとのようにもみえなんだが……門之丞、貴公はどう思う」
「殿のお心一つだ。殿がお蓮様をお許しなさろうと思召せば、それで四方八方|丸《まる》くおさまって、何より重畳《ちょうじょう》なわけ――だが、あんなにうちしおれておるものを、殿も、お斬りなさるのなんのというわけには、ちとゆくまいかと考えられまする」
源三郎は、今は小降りになった雨の矢が、裾を払うのもかまわず、竹の濡れ縁に立ち出でて、ふたたびじっとみつめているのは……またしても、見る影もなく花を落とした芙蓉《ふよう》の一株、ふた株。危険なところです――いま気を許しては。
しかし、上には上ということがある。
だが、そのまた上に、上があるかも知れない。そしてまた、その上の上に、もう一つ上が……。
お蓮様が引っ込んで行ったあと家内《やうち》はいっそう静まり返って、峰丹波をはじめ、誰一人、この部屋に挨拶にでる者もありません。
たださえ暮れの早い初冬の日は雨風に追われるように西に傾いて、いつとはなしに湿った夜気が、この、木立ちの影深い客人大権現《まろうどだいごんげん》の境内に……。
どういう計画がひそんでいるかも知れないと、一同はすこしの油断もなく、無言のまま室の四隅から立ち迫る夕闇に眼を据えていますと……。
ソッと襖があいて、
「お灯を――」
と、いう声。
さっきの少年の門弟が、燭台をささげてはいってきた。それを機会《しお》に、
「何もござりますまいが、お食事のしたくを頼んでまいりましょう」
そう自然らしく言って、門之丞が、少年の後を追うように出ていった。夜になって、また風が出たようすです。轟《ごう》ッ! と、棟《むね》を鳴らす音に、燭台の灯が、おびえたように低くゆらぐ……。
刀絡《かたなから》め
一
門之丞は、そのまま部屋へ帰ってきません。
やがて、同じ少年の弟子が、敷居ぎわにあらわれて、手を突き、
「御膳部《ごぜんぶ》の用意が、できましてございますが……御家来衆は別室で、ということで、どうぞお二人はあちらへ――」
と言う。
玄心斎は、さ
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