、あいだに置かれた乾雲丸の刀装《とうそう》に光った。
かくして、戦国の昔をしのぶ陣太刀作りが、普通の黒鞘の脇差と奇体な対をなして、この時から丹下左膳の腰間を飾ることとなった。
この一伍一什《いちぶしじゅう》を立ち聞きしていた老婆おさよ、
「すると丹下様は中村から――」
と知っても、名乗っても出ず、何事かひとり胸にたたんだきりだった。
というのが、死んだおさよの夫|和田宗右衛門《わだそうえもん》というのは、世にあったころ、同じ相馬様に御賄頭《おんまかないがしら》を勤めた人だから、さよと左膳は、同郷同藩たがいに懐しがるべき間がらである。
首尾《しゅび》の松《まつ》
底に何かしら冷たいものを持っていても、小春日和《こはるびより》の陽ざしは道ゆく人の背をぬくめる。
店屋つづきの紺暖簾《こんのれん》に陽炎《かげろう》がゆらいで、赤蜻蛉《あかとんぼ》でも迷い出そうな季節はずれの陽気。
蔵前の大通りには、家々の前にほこりおさえの打ち水がにおって、瑠璃《るり》色に澄み渡った空高く、旅鳥のむれがゆるい輪を画いている。
やでん帽子の歌舞伎役者について、近処の娘たちであろう、稽古帰
前へ
次へ
全758ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング