たのか……と、寝巻姿に提《さ》げ刀で立ち現われた多門へ、徹馬は今宵の騒ぎを逐一《ちくいち》伝える。
 ――丹下左膳という無法者が舞いこみ、大事の仕合に一の勝ちをとって乾雲丸を佩受《はいじゅ》したこと、そして、さしたまま逃亡しようとして発見され鉄斎先生はじめ十数人を斬って脱出した……しかも、刀が乾雲丸の故か、斬られた者は、重軽傷を問わずすべて即死! と聞いて、多門はせきこんだ。
「老先生もかッ」
「ざ、残念――おいたわしい限りにございます」
「チエイッ! 御老人は年歳《とし》は年齢だが、お手前をはじめ諏訪など、だいぶ手ききが揃っておると聞いたに、なななんたる不覚――」
 徹馬は、外へ探しに出ていて、裏塀を乗り越えるところを見つけて斬りつけたが、なにしろこの暗夜、それに乾雲丸の切先|鋭《するど》く、とうとう門前町《もんぜんちょう》の方角へ丹下の影を見失ってしまった。こう弁解らしくつけたしたかれの言葉は、もはや多門の耳へははいらなかった。
 お駕籠を、と老爺が言うのを、
「なに、九段で辻待ちをつかまえる」
 と、したくもそこそこに、多門は徹馬とつれ立って屋敷を走り出た……。
 行く先は、いう
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