る様みてえに磨きたてやがって――」
と、これを聞いたおしん、そっと足音を忍ばせてもう一度戸外へ出たが、気がつくと、もしも話の模様がじぶんを突きだしてお艶を入れるようなことにでもなったら、これを振りまわして暴れこんでやろうと、さっきから手にしてたたずんでいた擂粉木《すりこぎ》を、まだ握ったまんまなので、われながらアッ! とふきだしそうになるのをおさえつつ、ほどよいところから、エヘン! 一つさりげなく咳払いをして、
「あれ! どなたかお客さまでござんしたか」
わざとあわただしく駈けあがって障子をガラリ、
「まあおさよさん! お珍しい!」
とニコニコ顔のおしん、これでうちの亭主野郎もどうやらお艶さんをあきらめるであろうと思うからそのはなしを持ちこんできたおさよ婆さんを下へも置かずもてなしだすと、
「おしんや。あっちの羽織を出してくんな……それじゃアおさよさん、ちょっくら瓦町へ行って来ますよ。おしん、おさよさんは飲《い》ける口だ。晩にゃア一本つけてナ、帰途に俺が魚甚へ寄って何かよさそうな物を見つくろって来るから――」
「行ってらっしゃい」
おしん、おさよに送り出されて三間町の己《おの》が鍛冶店をあとにした富五郎、もう二度とわが家の近くへ立ち寄らないつもりだから、さすがにうしろ髪を引かれる思い、町かどで、叱りじまいに小僧の吉公をどなりつけたまま五十両をふところに浅草瓦町とは違う方角へ、逃げるがごとく、足早に消えていった。
それからまもなく――。
三間町を出はずれた鍛冶屋富五郎は、ひとり思案に沈みながら人通りのすくない町すじを選んで歩いていた。
ときどき、ふところへ手をやる。
と、五十両入りの財布をのんだ懐中はあったかくふくらんで、中年過ぎのこのごろになってともすれば投げやりに傾こうとする富五郎のこころを躍らせずにはおかないのだった。
十両からは首の台がとぶころである。
五十といえば、もちろん大金であった。
が、金そのものよりも、鍛冶富をうらやませてやまないのは、その金が買い得るあの艶の身膚《みはだ》であった。
聞けば、本所の殿様は、この五十金をおさよ婆さんに渡して、これで栄三郎からきれいにお艶をもらってこいといったそうな。評判の貧乏旗本で身持ちの悪い鈴川様が、どうして五十とまとまったものを調達できたのか、これが第一の不審だが、それはそれとしても、我欲に
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