夢想対月輪一刀の、二流優劣の見せ場となった。
剣戟《けんげき》のひびきは、一種耳底をつらぬいて背骨を走る鋭烈な寒感《おかん》を帯びている。
それが、助けをいそぐ夜の空気に霜ばしらのごとく立ち伝わってかけ声、風を起こす一進一退――気の弱い者を即殺するにたる凄壮な闘意が、烟霧のようにみなぎって地を這いだした。
闇黒をこめる戦塵……。
その刃渦《じんか》の底をすこしく離れた木かげに隠れて、さっきからこの剣闘をうかがっていたひとりの女があった。
いうまでもなくお艶、いや、今は羽織芸者のまつ川の夢八だ。
彼女は。
うるさい客の鍛冶屋富五郎に、せいぜいなびくがごとく見せかけて酒をすすめ、その間にぬけ出て泰軒を呼び返し、左膳ら今宵の策動を未然に報じてこの対計を採らしめたのだが、こうしてここから眺めていても、斬り合っているのは栄三郎一個、頼みに思う泰軒先生はいまだに姿をあらわさないのだ。
なるほど、今のうちは栄さまひとりでどうやら太刀打ちをしていけそうだが、なにしろこっちは一人に相手は多勢――どうなることであろうか? と、わが身も忘れてお艶はしきりにハラハラしているけれど!
逆にここに待ち伏せして、出てくるところをこうして不意に襲ったくせに、栄三郎にだけ剣をとらして、泰軒はいったいどこにひそんでいるのか……?
となおも見守っていると!
あせりだした栄三郎、群刀をすかしてその背後をのぞめば、鞘ぐるみのかたなを杖に、しずかに会話《はなし》つつ観戦のていとしゃれている二人の人かげ――月輪軍之助と丹下左膳である。
「乾雲! そ、そこにいたのかッ!」
声とともに躍りあがった栄三郎がいままでに何人か月輪の士の肉を咬み骨を削った武蔵太郎を正面にかざして打《ちょう》ッ! 撃ちこもうとしたとき、列を進んで中間にはいったのが土生《はぶ》仙之助だ。
「おのれッ! 邪魔立てするかッ!」
「何を言やアがる! さ、来いイッ!」
仙之助、栄三郎に真向い立ってぴったりとつけたとたん! 足もとの草むらから沸き起こった破《わ》れ鐘《がね》のような笑い声がかたわらの左膳を振りむかせた。
「わっはッは! やりおる! やりおる! こりゃ儂《わし》は出んでもええらしいテ」
「うむ」
早くも声の主をみてとったらしく、左膳は例になく沈痛な調子だった。
「乞食坊主であろう? そこで何か申しておるのは」
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