土井|大炊頭《おおいのかみ》の藩で江戸から十六里。
その古河を今朝たって野木、間々田《ままだ》、小山、それから二里の長丁場《ながちょうば》でこの小金井。
道中細見記をたどれば、江戸から中村まで七十八里とあるから、つづみの与の公、まだ前途|遼遠《りょうえん》という次第だが、心がけが遊山気分で、いっこうに足を早めようともせず、こうして日の高いうちからどっかり腰をおろし茶店の老爺《ろうや》を相手に大いに江戸がっているところ。
白い街道にやけに陽が照りつけて、真冬に北へ向かうのだからどんなに寒かろうと内心おびえて来たにもかかわらず、今日なんかは江戸よりもよっぽどあたたかいくらい。
それでもさすがに底冷たい風が砂ほこりを吹きこんで、名物と銘《めい》うった団子がザラザラと舌にさわる。ちょいと趣の変わった木立ちや人家、黒ずんだ遠田《とおた》のおもて、路傍に群れさわぐ子供らの耳なれない言葉……。
江戸っ児はうち弁慶《べんけい》、旅に出てはからきし意気地がないという。
与吉もその点では御多聞に洩れず、なんだかしきりに心細い気がしてくるのを、自分で懸命に引きたてるつもりで、
「旅もいいが、こちとらみてえな生え抜きの江戸っ児は、一歩お膝下《ひざもと》を出はずれるてえと、食物と女の格がずんと落ちるのに往生するよ。女はお前、肌をみがく水が悪いとして眼エつぶるとしてもヨ、食物はなんでえ食物は!」
「へえ。そうかね」
「チッ! そうかねえじゃねえや。早え話がこの団子よ、こ、こんな物が食えるけえ。これで名物のなんのとチャンチャラおかしいや。なア、江戸じゃあこんな団子は猫も食わねえんだよ」
「あんれ! ここらの猫もハア団子アあんまり食わねえだよ」
「何をッ! 馬鹿にするねえ! えこう、江戸じゃあナ、まあ聞きねえってことよ。金竜山《きんりゅうざん》浅草寺《せんそうじ》名代の黄粉《きなこ》餅、伝法院大|榎《えのき》下の桔梗屋安兵衛《ききょうややすべえ》てんだが、いまじゃア所変えして大|繁昌《はんじょう》だ。馬道三丁目入口の角で、錦袋円《きんたいえん》と廿軒茶屋の間だなあ。おぼえときねえ」
なんかと頼まれもしない浅草もちの広告《ひろめ》に力こぶをいれて、一人|弁舌《べんぜつ》をふるっていると、
「親方ア、馬はどうだね、安くやんべえよ」と、またしても馬子の声。
与吉は大いに業《ごう》を煮やし
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